安倍後を考える、その前に
いわゆる籠池さんのアレでね。安倍政権もいよいよ終わりかもっていう。たとえ続くとしてもレームダック化は避けられんだろう。あんまり面白い話ではありませんが、西部一門の端くれとして避けてはいかん問題か。tyoshikiさんが3/15の記事辺りから、「安倍後」の検討、そして「安倍中」「安倍前」の検証など、いろいろと書かれていましたので、興味ある方は前後の記事なども探ってみて下さい。以下の記事は、政治や経済の話ではないけれど。日銀の黒田総裁や岩田副総裁の心情を考える上ではすげー適切と思います。
ただ、tyoshikiさんとは、
① 論じる上での前提条件に差異がある気がする。
② 論じたいこと、問題意識に差異がある気がする。
ので、私がここで書きたいように書いても、あんまりかみ合わない気もする。気がするばかりのような気もする。もうリフレがらみの経済の話ってウンザリだしなあ。ウンザリでも、避けてたら先に進めない。「安倍後」を考える前に、「アベノミクス」とは、「リフレ」とはなんだったのか、をキッチリ検証し、精算しなければこの先には、少なくとも正しい方向には進めません。それが「現実主義」ってやつです。
やっときましょうか。アベノミクス総括。(すげー駆け足でやりますが、ここから7000字以上あります)
ただ往々にしていつも、「現実」と「現実主義」はかけ離れている、というパラドクスがあります。厳しい現実を見つめることこそが「現実主義」なんですが、そんなヤツは現実にはきわめて少数の変人ばかり。
「現実」の厳しさに耐えられない。めんどくさい。そんなのイヤ。だからおかしな理論、ご都合主義に、安易に飛びつく。ので現実の「現実」は、「理想」や「希望」や「願望」や「逃避」の入り交じった、ご都合主義的「妄想」で動く。ので、安倍後も引き続き妄想を元に動くのだろう、と予測される。せめて「岩田理論」よりはマシな妄想であることを祈るばかりである。
岩田理論とは
アベノミクス「第一の矢」とは、日銀副総裁の岩田先生の理論に基づきます。結局はそれが全て。今回は「第三の矢」である竹中先生の構造改革論は置いておくとします。「第二の矢」にしたって財政の拡大は最初の半年くらいなもんで、後は緊縮に振ったからむしろ逆方向なんだよな。
その岩田理論、完全にデタラメだったということで決着がついています。岩田理論とは全く別に、たまたま「うまくいっているようにも解釈できる部分」を「岩田や黒田や浜田や安倍の功績」の如く語ってしまう、ないし、有耶無耶にしてしまうのは絶対にダメです。ここをキッチリやらないとね。まあ現実では有耶無耶になるに決まってるので、せめてここではちゃんとやろうぜ。
岩田理論の狙い
日銀当座預金(マネタリーベース)の増大により、合理的経済主体(であるあなた)がインフレを予測するから「期待インフレ率」が上昇します。いいですか。今これを読んでいるあなたが、日銀当座預金残高が増加しているのを観測した結果「インフレが起こるぞ」と思うから、年2%の物価目標(名目GDP2%の増加)を達成できるのです。それが岩田理論です。そんなことを本気で信じ、実践したのは日本だけです。この五年ほどで多少はインフレ傾向が見られた時期もありましたが、岩田理論とは完全に無関係でした。岩田理論が原因じゃなかったら、じゃあ何だろう。
じゃあ因果関係は?
(1) 消費税の増税。
いわずもがな。これはれっきとした、分かりやすい「インフレ期待」。3%UPで3%の物価上昇が期待される。当然だな。
(2)名目GDPの計算方法が変わった
昨年あたりは名目GDPが過去最高だったそうですが。これについてはモノシリンとかいう人がやってましたけど。あの人は安倍憎過ぎて、何もかも悪意変換&インチキ認定してしまって説得力が落ちるんだけど、最近のGDP算出にインチキくさいカラクリがあった、というのは本当。
(3)円安
金融緩和は円安を意図したものではありません、というのは安倍さんも黒田さんも浜田師匠も強調していましたね。「なんかよう分からんけど、たまたま出てきた副産物」という設定です。実際に岩田理論にも浜田理論にも通貨安の話は出てこない。「アベノミクス効果」としてご都合主義的に利用する人はたくさんいますがね。松尾匡氏とか。
とにかく、(設定上では)金融緩和とは無関係に、なぜか通貨安。なので輸入物価上昇。もうひとつ、(4)大手自動車や電機メーカーなどのグローバル企業は海外に多くの工場を展開しているので、そこから上がる収益が円建て換算で増加しました。「海外所得収支」が(円建では)大きく改善したと。一部大手メーカーではこれを原資にして賃金アップも可能になった。別に輸出が伸びたわけでも無い。スバルなんかは伸びてたと思うがアレは企業努力であって。岩田理論とは関係がない。あとは(5) 国際政情不安、天候不順などで燃料や食料価格が上昇したり。
(6)株高
株高も理論上は無関係。これはケインズ先生の言っていた「流動性の罠」の話で、政策利子率を自然利子率より下げる、さらに量的緩和で資金をダブつかせる、などやっていると投機資金需要が理論上は無限に拡大していく、というヤツ。さらにこれを「日本に投機しても大丈夫ですよ! Buy my Abenomics !」 ということで利鞘を補填するためなのか、日銀が日本株を買い支えている。これが特にマズい。
今の日本で黒田さんがやっているようなことは、ケインズもハイエクも「百害あって一利なし」という考え。この話はとても厄介なので詳しくは先送りしますが、20世紀最高の経済思想家ツートップが揃ってダメだと言っていることは重要です。そして現代の経済学や思想は、彼らが活躍していた頃よりも退化し、ご都合主義的妄想ばかりになった、ということです。なんせ岩田理論による「社会実験」など上述した通り、全てデタラメだったんだから。
ちなみに、日銀前総裁の白川さん、今ではまるで「諸悪の根源」の如き扱いですが、ハイエクの教え、現代主流派経済学の正統シカゴ学派の学徒として、経済学的には非常に正しかった。結局は挫折しましたがね。あの人を単純に悪者扱いするってのもどうかと思います。現代主流派経済学の元祖はハイエクです。自由経済を守るため、正常化させるため、その教えを可能な限り正しく運用しようとしていた。そういう強い信念があった。それだけです。
でもじゃあ何でうまくいかなかったのさ?どうすりゃ良かったのさ?これはちゃんと説明しないと納得がいかんでしょうからいずれ必ず、多分やります。やれたらいいなあ……
(6)-1 外国人投資家の動向
株高になった、ということと、日本市場で売買してるヤツの6~7割が外資系、ということで、海外から日本に資金が集まっている、という見方をされる人がいます。しかし、本当に海外から日本へ資金が集まっていたら通貨高株高になります。アメリカのように。日本は通貨安傾向ですから、少なくとも海外から金が入ってくるより、出ていってる方が圧倒的に多いです。
まあ、最近は一時期よりも円高傾向ですので海外から日本にカネが移動しているようです。これは日本に資金が集まっていると言うよりは、貸し出してたカネが戻ってきている、と考えた方が合理的と思います。
(6)-2 セカンダリ市場と実体経済の関係
外人が日本で金借りて日本で投資しているとしても、投資には変わりない。株高で景気は良くなってるようだし、それはそれでいいんじゃないのか。どんな問題が考えられる?
彼らの調達したカネはほぼ全てセカンダリマーケットに入ります。セカンダリマーケットと実体経済には直接的な関係がありません。じゃあどういう関係があるの?
① インカムゲイン
実体経済から投資家へ、配当金として吸い上げられます。株価が高ければ配当金も高くなる。ので実体経済側はカネが減ります。デフレ圧力になります。吸い上げられた以上の名目成長が無いと、経済が萎むばかりで非常にマズい。この辺でやった話。
fnoithunder.hatenablog.com
② 個人投資家
一概には言えませんが、私のような個人投資家は実体経済で稼いできたカネをセカンダリ市場へ回します。ので、実体経済はカネが減る。これもデフレ要因になる。
③ トリクルダウン
投資家がセカンダリ市場で儲けたカネを使うことで、実態経済に還元される。理論上はそういうことになっている。が、現実的にはセカンダリ再投資にまわす方が多く、そんなトリクルダウン効果が存在するのかあやしい。そもそもが①からの所得移転なので、それ以上には実体経済側へ返ってくるはずがないじゃないか。一部は戻るんだろうけど。そう考えるのが妥当です。よって、そのまま放置では経済は縮小方向に。
しかし、緩和マネーが投機に回っているならばインカムゲインだけでなく、キャピタルゲインだって実体経済にトリクルダウンされるんじゃないの?でも、これはあくまで投機用に「借りたカネ」だからね。バブルが弾ければ消滅するカネなので、当てにできるようなものではありません。まあ、この問題を解決するために日銀がETF買い支えをしてるわけなんですがね。
これ、ちょっとイジワルな切り方をしますが。2018/3/20の日経平均終値は21,380.97 でした。黒田日銀以降に日経平均が21,000を最初に越えたのは2015年の6月です。それ以降の約三年間の日銀のETF買い入れ額は13兆円を超えています。13兆も買ってるのに株価がほとんど変わってない。ってことは、「現時点での含み」では、この13兆はすべてマネーゲーマーに持っていかれた、ってことです。
外国人投資家のやってることを想像すると、つまりこういうことです。
彼らは自己資金はほとんど日本には入れてない。日本で超低金利でカネ借りて、日本株を売ったり買ったりしてたら、莫大な利益が出た。少なくとも3年足らずで13兆も利益が出ていて、そのうちの6~7割は外人が持っていった。カネをぶっ込んだのは日銀。
まあ、数値の上ではそういうことが想像できるね、という話であって「カネの移動」が実際にどうなのかはよくわかりませんがね。これは決して難しい話ではないし、この先2年くらいで更にどんどん悪化していくことが想像されます、よね。
今年は6兆円ほどETF買いするらしい。毎年6兆ものカネを「無条件にセカンダリマーケット参加者にばらまく」のが正しい経済政策、と仰ってる人もいるようですけど。確かに、国債発行して予算編成するよりも圧倒的にカンタン、とりあえずは国民やマスコミから文句も出てこないので、それでいいんだ、ってことなんでしょう。事実上のキャピタルゲインとして中央銀行が投資家にカネを配るのが「正しい経済政策」って私には全く理解不能ですが。
そんなカネの出し方するくらいなら、教育投資とか、老朽化したインフラ整備とかに出せばねえ。まるまるGDPになるのにねえ。将来世代への投資にもなるのにねえ。雇用対策にもなるのにねえ。名目でも実質でも経済成長になるのにねえ。なぜに、存在するのかも分からないような微細な海外投資家経由のトリクルダウン、をあてにするのか。なぜ直接、日本の教育投資や設備投資に使わないのか。そりゃプライマリーバランスが!政府の無駄遣いが!利権だ!既得権益だ!忖度だ!不公平だ!などと文句を言われて面倒だから、なんでしょう。今のカネの使い方なら、マスコミも国民も文句言ってこないんだし。ああ自縄自縛。日本死ね、などと言わんでもこりゃ勝手に死ぬわ。
(7) いわゆる「国の借金」の減少
例えば、高橋洋一先生の論説など持ち出して、日銀の国債の買い入れのおかげで「いわゆる国の借金」が激しく減ったぜ!すごいぞアベノミクス!!などと自慢げな人がいましたね。そんなの狙ってたワケじゃないし、理論上は当たり前だし理論上はインチキだし。だからなんだそれがどうした、としか言いようのない愚論です。ここで詳しくやった話です。
あんなポジショントーク&ご都合主義ばかり、超無責任なヤツなど持ち出すなよなー。まあ、あの人の言ってることは「必要悪」みたいなもので、やむを得ないか、と思う面ははあるんだけれど。「お役所」なんかで、よく分かっていない上司にハンコを押してもらう、話を先に進めるためには「それっぽい理屈」がどうしても必要、という程度の理論でしかない。便利、方便。高橋さんはいつだって間違ってはいない。正しいわけでも無いがな。
いつでもポジショントーク、超無責任な人なので、じゃあ今回はどういう立場で何を言ってるんだろう?というのを考えながら検証するといいです。用法用量を意識すれば、けっこう役に立つ人ではあります。ムカつきますが、そこはガマンして。
とりあえず財政問題は何が問題なのか、本当に問題なのか、などを検証する必要はありますが、少なくとも「政府の借金が減って見える」ようになったことと、岩田理論やアベノミクスは無関係というか、当たり前すぎて論じるに値しない結果であることは、認識しておいてください。
(8)過去最長レベルの経済成長が続いている
具体的期間は(バカバカし過ぎて)よく知らんのですみませんが「実質経済成長が続いている」を強調して、「引き続き景気が回復基調ある」みたいなことも言われてますよね。これも典型的な方便。数字のマジック。ごく単純化したモデルで説明します。
増田先生の経済成長
ある学校に増田という先生がいました。昨年まではフルタイムで雇われていましたが、もともと授業数が週15回しかなかったので、今年からはフルタイムで来なくていいです、ということになりました。パート勤務となり、授業が少ない日は午前中だけ、午後だけとか。拘束時間は減りましたが、月給が20万円→10万円になってしまいました。
これぞみんな大好き「改革」だとか「無駄削減」ってやつですね!オンデマンドビジネスだ!かっこいいぞ増田先生!!
しかし増田先生、収入が減ってしまってこのままだと生活できない。ので空いた時間でコンビニでバイトを始めました。バイトでは月5万円を得られるようになりました。
さて増田先生、昨年比での実質成長はいくら?名目成長はいくらでしょうか???
よ~く、考えてみて下さい。
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答え
増田先生、計算上は学校での仕事量は昨年と変わっていませんね。実質的に昨年=今年です。そして空いた時間でコンビニバイト+5万円の仕事が増えました。よって、
実質成長は+5万円。となります。
対して、名目成長は単純な金額を指します。収入が20万→15万ですから、
名目成長は-5万円。となります。
増田先生、実質成長+5万円!!
やったね増田ちゃん、できる仕事が増えるね!
などと喜んでいる場合でしょうか。
ちょっと単純化しすぎですけど、実質と名目の関係とはこういうものです。私は「実質成長」という言葉に惑わされてはいかん「名目成長」の方が大事だ、って口を酸っぱくして何度も言ってきましたが、これで分かって頂けましたでしょうか。
まとめ
第一の矢
というわけで、上述してきたとおり、第一の矢である「岩田理論」は全てデタラメでした。安倍も黒田も岩田も辞めて当然と思います。一部には(岩田理論とは無関係に)上手くいったようにも解釈できる部分もありますが、本当に関係あるのか、因果関係の検証は必要です。また、株価が上がっているなどは、良さそうに見えてでも、事実上のインチキで、中長期的には有害なモルヒネみたいなもの。どうせもう直らないから、というだけのその場しのぎの処置に過ぎません。
大した効果も無く、むしろ中長期では害が多く、まさにハイエクの予言通り。
第二、第三の矢の話は今回はしてませんが、以下にまとめておきます。
第二の矢
2本目の矢「機動的な財政政策」ってのは最初の一年足らずで止めてしまって緊縮財政に舵を切りましたから、これは無かったようなもんです。いわゆる「カンフル剤」だったんでしょう。あくまで一時的にしか使えない、といいう判断だったんでしょう。
第三の矢
言わずもがな。いわゆる構造改革。うちでもさんざん批判してきましたね。
そういうわけで私が思うに、第一の矢=モルヒネ、第三の矢=毒、くらいの認識。どっちももういい加減に止めた方が……手遅れって気もしますがね。
じゃあどうすりゃいいのさ
どうにもならんな。滅びを待つのみ。いかに滅びを遅らせるか、くらいしか手が無いか。とすると、じゃあ安倍さんのやってることも一概に間違ってるとも言えないか。来週はいよいよ佐川元長官の証人喚問です。政府はあんまり財務省を敵に回すようなことばかり言ってると手痛い反撃を食らうかも。まあ、なんとか無難に通過したとしても安倍政権のレームダック化は避けられないんじゃないか、ってところだし。
私としては、今後の課題として残った、現代経済学の基礎である「ハイエクの理論」が、なぜうまく回らないのか、の辺りを研究しておこうと思います。まあ、ハイエク自身が「ダメだ」と言ってるようなことをちっとも守らないから、ってのもあるんですけど。
実のところ「現代経済学」は、根底では「資本主義」を想定していない、という問題があります。ハイエクの理論て、経済学も哲学も難しくて、ろくに理解できてないので、斜め読み、なんですけどね。ハイエクの理論では、資本家・投資家と、企業家・起業家、って当然想定されているけどあくまで「自由経済」の枠組みの中での関係性であって、資本「主義」なるものは存在しません。この歪みをどう是正するのか。
「自由経済」の原則を押し通すことでこのゆがみを是正するなら、白川前総裁は正しい。「資本主義」が正しいとするなら、現代経済学の枠組みで治めることは不可能。だから黒田も岩田もデタラメ。そんな感じ!おわり!!
(多分、続く、いずれ、またね)