成長するか、戦争するか

経済成長しないと戦争になる。のか?

なんつーのは大げさですけれど。「貧すれば鈍する」で人心が荒れ、治安が悪化して内乱になったり。そしてそれを政治家がうまく外に向ければ戦争になる。恐ろしい恐ろしい。という話の原理を考えてみましょう。


ホントに経済成長なんて必要なのかよ?なんでだよ。って話。


結論を先に言ってしまうと、
自由経済」には経済成長は必要ない。っていうか関係ない。
「資本主義」には必要。成長しないと死ぬ。もう死んでいる。


 まずは「自由経済」と「資本主義」は違うって認識が必要です。「自由経済」理論だけなら経済成長は必要ない。するなら勝手にするし、しないならしない。市場が決めること。経済が決めること。アダム・スミスフリードリヒ・ハイエクはこう言っている。それはそれで、分からんではない。それで済むなら別に経済成長は必要ない。


 しかし「資本主義」は結局これだけではどうしても回らなかった。投資という概念があるから。未来に対する「収益期待」が投資行動の原理。資本主義では、未来は必ず成長していなければならない。成長しないと利払いが出来ない。資本主義が成り立たない。致命的。ここに「資本主義」と「自由経済」のズレが生ずる。2%のズレ。「株式市場」は「市場原理」では動かない。これを一緒くたにしてしまっているのが現代経済学の問題、或いはインチキ、ないしカラクリ。

 ケインズによれば、投資利回りの最低ライン目安は年率2%。この「2%」が大きく作用する。何度でも言うが、こんなのは100年以上前から分かっている。知ってて黙っているヤツらがたくさんいる。皆が知らない方が都合がいい。


 以下、思考実験。ものすごく単純化します。一国の経済がこうも簡単にスタティックに切り取れるハズはありませんが、考え方のモデルとしては有効と思います。ツッコミを想定した補足条項は(鬱陶しいので)下の方に書いておきますので、素直な人は見なくて構いません。


ではでは、ちょっと考えてみてね。某国の年間GDPが500兆円、そのときの株式時価総額が300兆円だったとする。

〇 4% 成長モデル

年4%の経済成長があったとすると、翌年は+20兆円ですね。これを労働者と株主で10兆円ずつ折半することにする。

実体経済にプールされる金:500兆→510兆 2%UP
株式市場にプールされる金:300兆→310兆 2.6%UP

 このように、GDPでは2%成長になる。資本主義が借金で成り立っている以上、利払いは必須です。「GDP三面等価の法則」からすると、理論上は労働者の賃金はGDPに比例するので、2%増えているはず。これを20年間継続するとこんな感じ。
 
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実体経済 500→728 1.46倍
株式市場 300→528 1.76倍

 このモデルでは株式市場の方が伸びが大きい。実際の世界経済もこの傾向。これがトマ・ピケティの「21世紀の資本論」で有名になった「r>g」のこと。資本主義はおよそ「return>growth」「利回り>経済成長」になるということです。

 労働者の分配も46%増えているので、そんなに文句は出なさそうではあるけれど、これも一概には言えない。例えば労働人口が50%増えていたなら、一人あたりの賃金は低下している。まあ、混乱の元なので、そんな話は今はやめておきます。

〇 1%成長モデル

 元が500兆なら、経済成長による経済拡大は5兆円になりますね。でも株主への利払いを最低ラインの2%還元とすると6兆円必要。実体経済側は1兆円の赤字になる。

実体経済にプールされる金:500兆→499兆 0.2% DOWN
株式市場にプールされる金:300兆→306兆 2% UP

1%の成長では2%の利回りを賄えない。仕方ないので労働者の賃金を減らしたり、設備投資をケチったりする。これを20年続けるとこんな感じ。
 
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実体経済 500→455 0.91倍
株式市場 300→437 1.46倍

1%成長では、実体経済はマイナス成長になる。実体経済が縮小しているのに株式市場は拡大し、利回り負担が増えていく。実体経済の締め上げはどんどんきつくなっていく。

〇 ゼロ成長モデル

 言わずもがなってことろですが。ゼロなんだから利回りなんぞ払えるはずがない。でも払わないと株主が逃げ出して株価が暴落、会社は次々に倒産し某国経済は大混乱!?なんてことになってしまっては、まさに「元も子もない」ので仕方がない。とにかく2%の利払いモデルで計算してみましょう。単なる思考実験ですし。

実体経済にプールされる金:500兆→494兆 1.2% DOWN
株式市場にプールされる金:300兆→306兆 2% UP
 
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実体経済 500→363 0.73倍
株式市場 300→437 1.46倍

 おお凄いことになってる!ゼロ成長なんだから変化しないんじゃない?なんてとんでもない! 27%もの経済縮小。対して株式市場は46%も成長してしまったので利払い負担ばかりが増えていき、経済縮小が加速していくうううう!!という酷い有様に。恐ろしい恐ろしい。



 ツッコミ避けに書いておきますが、もちろんこんな単純な話ではないですよ。成長=粗利みたいな話は安易過ぎだし。投資家は全てを再投資に回すわけではないし。労働者だって投資する人もいるし。今は投機も盛んだしキャピタルゲインの方が主流だったり。倒産して紙切れと化す株式だってあるし。それに資金用途は株だけじゃない。預金、国債、土地、保険、外貨などの運用もあるし。俺くらいの年齢のサラリーマンなら自分名義の年金基金支払いは延べ1000万を超えているだろうし、その幾ばくかは図らずとも投資資金となっているだろう。


 ただ、ざっくりと、資本主義の基本的なカネの流れはこういうものだ、と知っておくのはよろしいかと。


 封建社会と変わらず、お代官様に上納金を支払わねばいかんって話で。いやもっとたちが悪いとも言える。株式市場は膨らんでいくので上納金が増え、実体経済は締め上げられる。ので実は、株式市場以上に実体経済が成長しないと、理屈の上では資本主義はうまく回らない。でもそんな状態は奇跡なんだがな。困ったものだな。


 実のところ日本経済は1997年頃から縮小傾向になってる。実体経済からGDP比で年2%程度の資金が引き揚げられてしまい、株式、債券、土地、預金、保険、外貨などの「金融市場」に移動している。とすると、3番目のゼロ成長モデルより酷い数値になりそうですが、そこまではいってない。なぜかと言えば、

① 日本の株式市場は平均2%の利払いすらしてない
②「金融市場」に移動してしまった資金を政府が「借金」して「実体経済」に戻している。


 特に②が大きい。政府が借金して実態側にカネを戻してやらないと日本経済は干からびちゃう。政府予算の「プライマリバランスゼロ」なんて達成した日には(年には)、年2%のマイナス経済成長は約束されたも同然。朝日新聞とか日経新聞とか毎日新聞とか、なんでこれが分からんのだろう。不思議だあ。


 更にここ5年くらいは政府による「実体経済」への資金戻しだけではなく、日銀による株式市場への資金投入も盛んにおこなわれているね。これは事実上、日本株を投資家に買ってもらうための、日銀(国)による「自社株買い」のようなもの、っていうか「自国株買い」っつーか。企業による配当金(インカムゲイン)の代わりに日銀が売買収益(キャピタルゲイン)を期待させ、国が投資家に事実上の配当金を出しているようなものじゃないかな。いやあマジ酷い有様だな。日本の資本主義は死んでいるよ。アメリカもか。世界的な傾向だな。



まあなんか、これはもう、どうにもならないから、皆、口をつぐんでいるのかなあ。


こんな時に人類は、いかにこれを解決したかって、戦争なんだよ。戦争による大破壊、大破壊による極端な物不足、物不足によるHYPERなINFLATION、INFLATIONによる貨幣の破壊。だからつまり戦争ってのは人類のecosystemに組み込まれているんだよ。資本主義と戦争はセットなんだねえ。


困ったねえ。


※ご参考(別に本記事のようなことが書いてあるわけではありませんが)

「欲望」と資本主義-終りなき拡張の論理 (講談社現代新書)

「欲望」と資本主義-終りなき拡張の論理 (講談社現代新書)