「機能的財政論」序説

 ああああ、前の記事ラストが「アメリカ出羽守メソッド」になってた!俺としたことが岸先輩の十八番を使ってしまったああ。それはともかく。


tyoshiki.hatenadiary.com

 未読の方は、上記に加えて一つ前の「君のお金はどこに消えるのか」も読んでいただければより理解が進みます。最近うちでもプライマリーバランスとかやったので、気になる話。とは言っても私の経済学など所詮は「下手の横好き」なので、迂闊に語ると「騙る」になってツッコミ入りまくりかもしれんし、残念ながら全く納得のいく話はできないかもしれません。


 上記リンク先のtyoshikiさんは「リンク先「統合政府純債務対GDP比」のまとめが納得いかない、誰か分かるように説明して欲しい」のようなことだったので、読んでみました。誠に残念ながら、ご都合主義的にデータを切って貼ってまとめて大喜びしてるが何の意味があるのかよく分からない話でした。
ああ左様ですか……それは良かったですねえ……ってそんな感じ!おわりっ!! 

 一番ヘンなのは、そもそも日銀は「財政健全化」のために国債購入しているわけではないので……その部分だけを熱心にまとめられても……

 岩田リフレ理論はデタラメだった。「社会実験」とか称して凄まじい大失態をやらかした。まだそんな買いオペ続けてんのが信じられんよ。「ダメでした」「誤算でした」で済むような話じゃ無いんだぜコレ。安倍さんがそのへん分かってねえんだよなあ。あの人自身が「騙された」とか思ってんだよ。「浜田先生!黒田先生!話が違うじゃないですか!」ってさあ。誰一人として責任取らないのはどうなのよ。


 ああ、リフレじゃなくて今は「財政健全化」の話でした。ともかく、上の話はリフレという「大枠」が最初から相当におかしいので、たまたまうまくいっているようにも解釈できる「日銀の振るまいの結果の一部」の「財政健全化効果」だけ切り取って分析して、そこだけ絶賛してもねえ。こういう情報が無意味とは思いませんが、これではまさに、tyoshikiさんの指摘する「正しい部分もあるじゃないか」メソッドと思います。タチ悪い。高橋(洋一)氏の論説を参考にしているみたいですが、こういう詭弁方便は高橋先輩の大得意とするところ。なので、真剣に論じる価値は無いんじゃないかなあ。

 方便として「決定権を持つ上司(大臣)などに根拠を示し、説得する、ないし誘導する」ような、いわゆる「相手を分かったような気にさせる」ケースでは効果的なテクニックかもしれません。まあまあ高橋さんはそういう経験が豊富なので。おそらく自分でも「こんなの結論ありき、実はこんな数値にたいした意味ないんだがなpgr」って分かってわざとやってるんだと思う。


 あとは……正直言って私自身はですね。「財政健全化」それ自体はあまり重要ではないのではないか、と思っておりまして……。と、これではリンク先以上に納得がいかないですね。ではいったいなぜ「重要ではない」と思うのかをちゃんと説明するのがいい感じ。

 しかし、ブログ記事1本で論じ切るのって色々と無理があるよね経済論争って。例えばここで私がケインズ経済学系統のパラダイムに出てくる「機能的財政論」をいきなり持ち出して「正しい財政のあり方」を語ってもね。きっと「まあ言いたいことは分かったけれど納得感は無いな」という程度のものにしかならないし。

議論の前提条件

 私が経済を論じるとき、主軸は「地政経済学」のパラダイムで考えますが、これは現代の主流である「マネタリズム」やら「貨幣数量説」だか「自由主義経済」とかのパラダイムからしてみればきっと「お前は何を言ってるんだ」「全然ダメだ話にならない」ってことになる。

 それに私自身、その「地政経済学」のパラダイムをちゃんと理解できているのか、つったら、かなり怪しいわけで、ちゃんと納得のいくように皆さんに説明できるレベルにある気もしないしなあ。


 というわけで、議論なり対論なりをする前に、まずはこういう前提条件を明確化して、共有しなければなりません。その辺をまとめてみましょうか。五つほどありましたよ。

① 地政経済学

 中野剛志さんが昨年末の本で提唱していたヤツ。元はアメリカの学者ロバート・ギルピンの論説から来ている。あとは、サミュエル・テイラー・コールリッジハルフォード・マッキンダーとか。私が経済の話をするときに最も重視するパラダイム。今どきの日本で主流の「マネタリズム」とは全く違う。「経済学」としてはケインズ系のポリシーが多くなるかな。

富国と強兵―地政経済学序説

富国と強兵―地政経済学序説

マネタリズム

 tyoshikiさんがどのくらい意識されているか分かりませんけれど、基本的にマネタリズムが現代主流派経済学だし、主にそのパラダイムで話をされていると思います。「君のお金はどこに消えるのか」の記事ではマネタリズムの矛盾の話をしていて、これは全く仰るとおり、なんで「円安」や「円高」が起こるのか具体的にちょっとは考えろよって話。ホントに飯田泰も松尾匡もいい加減にしろよ。うちでも散々批判してきた件。増田とか児童小銃氏とか。飯田も松尾も。

fnoithunder.hatenablog.com


 マネタリズムはもうパラダイム的にダメなんじゃないか、というのと、そもそもそもそも、「カネの発生が実際と違うじゃないか!」という重大な欠陥を何でいつもいつもいついつまでも無視しているのか。なんで「マネタリーベース=出回っている通貨量」みたいに話を進めるのか。ベースマネーを増やしたってインフレにならないのは当たり前。「安倍の誤算」って、そもそもリフレがガセネタなんだよ。とだけ言っても結果論だけで説明がないからやっぱり説得力が足りない。マネタリズムはなんで破綻していると思うのか。この話は結構書いてきたけど。いずれもういっぺん簡潔にまとめてみようか。

 そうだリフレの話で一番おかしいのが、ユーロ圏はダメだけど日英米は平気!ってのが、冒頭のリンク先のリンク先に出てくるんだけれどこれも相当にヘンな話でね。インフレもデフレも貨幣現象だっていう原則。だから中銀の独立性が大事なんだろ。国家行政とグルになって金融経済にむやみに介入するのって論理矛盾してない?というのを歴史的経緯で説明するって、まだオレやってなかったんだっけ?

fnoithunder.hatenablog.com

自由経済

 マネタリズムとも深く関連する話。「君のお金はどこに消えるのか」の記事のラストのリンクの人が典型的な自由経済論者のようでしたけれど。自由経済。それは本当いいものなの?どうして(神の)見えざる手を「中央銀行が発行する通貨」によって仲介することができると思うの?っていうか昔言ってた「中央銀行の独立性」はどうしたんだい?ユーロってどう思う?あれ最先端だよね?成功してるの?あれがマネタリズムの理想だったはずだがな。

 前回記事に書いた、自由経済からこぼれ落ちる「生産性の低い」人、地域、産業はどうするの?自然淘汰で消えていくの?「経済産業省」「産業競争力会議」「政府税制調査会」のヤツらが「産業の新陳代謝を促進」とかフツーに言ってますが。「新陳代謝」ってさ、要するに「儲からない産業」は捨てるってことだよな?「産業」の中身は「人の営み」なんですがね。

自由経済論者」はこれを無視して、自由経済やら自由貿易やらを礼賛する。これがどうにも許し難いのよ私は。国は「金融政策だけならやっていい」ってのも凄い方便だよ。なんでそんなことが言えるのか全く理解できん。金融だけで弱者敗者が救済できるかボケアホンダラ!

④ 国家の役割

 「自由主義経済」ってのは、国家は経済に介入してはいけない、(神の)見えざる手を妨げてはならない、という大原則があります。ところがしかし前回記事の通り或いは上述の通り、様々な問題があって、放っておけばたくさんの難民死人が出るシステムです。現実がそれを示しています。

 ではこの経済難民をどうするか。いわゆる「国家の役割」を積極的に果たすべきか、それとも仕方なしに消極的にやるか、という問題で、自由経済論者は「仕方ないので、最低限、事後的に、やらざるを得ないか」という程度の認識。この30年、これが延々続いていて何度も何度も大問題を引き起こしてるんだがな。ITバブル崩壊やらリーマンショックやら、デフレやら失業やら貧困やら格差やら。自由経済の推進のための「改革」が次々と深刻な問題を起こしてるのを、いつも事後的に政府が尻ぬぐい。「自由経済」が完成に近づけば近づくほど、格差は拡大し、人も経済も政府も疲弊し、弱者は死ぬ。いずれもう、どうにもならんようになるぞ。

⑤ 経済と財政

 そういや「経済財政諮問会議」なんてのがあるね。あんなのやめちまえばいいのに。
唯一?民主党政権時の良かった点はこれを廃止したことか。おっと脱線。

 「経済」と「財政」の健全性を分けて考えましょう。「機能的財政論」ってのはまさにそういうアイデアです。経済がマズイのか、財政がマズイのか、本当はどっちなのか、よく考え、見極めるべし。というより「機能的財政論」では原則としては「財政がマズイ」という状態はない。「財政に持続可能性が無い」ように見えるなら、それは経済側に問題の根本がある。「財政」で「経済」を救えないようなら、いずれ「経済」は破綻する。「財政」は「破綻」するものではない。


 まずは「経済」。資本主義経済を「持続的」に「健全」に回すためには、(目安として)最低でも年2%、できれば3%以上の名目経済成長が、絶対に必要です。この辺でやった話ね。

fnoithunder.hatenablog.com


最近の名目GDPはこんな感じ。
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 アベノミクスはあんまりうまくいってない。確かに名目GDPは伸びてはいますが。一年目は「第二の矢」の成分、二年目は消費税増税の成分、あとは全般に円安による輸入物価上昇分の「名目成長」がありました。引用元の「世界経済のネタ帳」によりますと2017年度予測は四月時点で546兆円だったそうですが、これは現時点では下方修正されていて、537兆円になっているようです。

国民経済計算(GDP統計) - 内閣府

今年度は名目ゼロ成長の見込み。実質は伸びるようだけれど。


 ここで大事なのは「実質成長」じゃないですよ「名目成長」ですよ。だって「実質成長」てのは、前回記事のパターンでいうと、例えば増田さんを正規雇用非正規雇用にすることで、コスト削減できるわけでして、すると、今までは高校の10Hr/weekの授業を年400万円でやってたのを、今年は200万に削減できました!よって50%の「実質経済成長」を達成しました!ってそういう計算の仕方するからね実質は。覚えておいてね。実質と名目の差分はつまり「GDPデフレーター」のことなので、「実質成長」はデフレ成分と見なして差し支えないです。


 日本ではもう二十年来、資本主義がまともに成立していません。短期でみれば、うまくいっているようにも見える部分もありますがね。

まとめ

 マネタリズムの欠陥や自由経済がもたらす歪み、実体経済への悪影響の方が問題の本質。これは「資本主義の持続可能性」の問題でもあって、今の日本なら10~15兆円/年の名目経済成長がないと資本主義は持続できない。現状では「財政赤字」を年10~15兆円増やすことで対応しているが、これでようやく「名目0%成長」が達成される程度。いわばこの「財政による経済補正」が「機能的財政論」の役割の一部を結果的には果たしている。

 ただしこれは「自由経済」の原則にのっとり、事後的に、問題の「尻ぬぐい」を、最低限度以下、逐次的に、仕方なく、やってる程度、なので延々「財政赤字」はふくらみ続けるし、その行政赤字増加分を「持つ者」が吸収して私服を肥やている。何の解決にもなっていない。いずれ破綻するのは社会とか経済の方。しかし、資本主義自体の持続性が無いのだすれば、いったいどうすりゃいいのかね。「財政」に八つ当たりしてもなあ。


この本にヒントが。(Kindle版は半額ですよ!)


 確かに今の日本は経済も財政も健全ではない。でも、解決を目指すべきは経済側の問題だけです。経済が健全化すれば勝手に財政は良くなります。ので、「財政健全化」を目指すのは本末転倒。PB黒字化なんてやってると経済の方が締め上げられて破綻する。アルゼンチンのように。ええ、破綻直前にはPB黒字化達成してたそうですよアルゼンチン。しつこいですけれど何度でも言います。「改革」は経済を確実に悪化させます。萎縮させます。アルゼンチンになります。改革をやめろ!悪魔の安倍ドリルを破壊しろ!!

じゃあどうするの!

 「経済健全化」のために「財政」を積極活用・策定する、というのが機能的財政論でございます。まあ、機能的財政論だけで経済問題を全て解決できるぜ、なんて甘い話でもございませんがね。「資本主義の出口」が見えないなら所詮はダメ元でしかない。でもそれはあくまで財政ではなく、経済の問題ということです。


 とまあ、長くなりましたが、駆け足でごく簡単に私の認識を書いてみました。「財政健全化」を重要視しない理由は、それなりにお分かり頂けたかと思います。上記に出てきた五つの論点について、気長に、気が向いたところから、記事にしていきたいな、とは思いますので。あまり期待せずにお待ち頂ければ幸い。