『国債がマイナス金利』の馬鹿馬鹿しさ

 前回の続き。更にくだらない話を徹底解説!
 
 この「国債マイナス金利」の話、前回記事に出てきたリアル議論では、改革者が「国債の価値が高まり、国債市場が活性化している証拠だ」みたいに言っていたような気がする。あなたの周りにはそんな人はいませんか?

 まあ、正直言って私は改革者の議論を潰しにかかっていたし、相手の方も「反論のための反論」と化しており、全く中身のない議論でした。

 議論の仕方には自分にも問題あったなあと反省しています。


 ……うーん……この時の議論で、私は「こんな馬鹿な話があるか」と言ってしまったので、やっぱりちゃんと書いておかなければ、とは思うものの。中央銀行が有価証券買い続けたら値が上がるのは当たり前だろ、ということで終わりにしたくなってきた……あんまり面白い話でもないし。


なので、手短にちゃっちゃとやりましょう。

『有価証券』の市場とは

 まず、国債や株券等の有価証券の取引には「プライマリ市場」と「セカンダリ市場」があります。新規に発行主から販売されるのがプライマリ市場。「既に発行された証券」の取引がセカンダリ市場です。例えば上場株式はとっくの昔に発行されたものですから、全てセカンダリ市場。「過度に単純化® された定義」によると、まあ要するにプライマリが新品でセカンダリが中古。一般人が自由に取引できるのは、基本的にはセカンダリ市場の方です。
 

セカンダリ(中古市場)

 日銀は、既に市中に出回っている国債を購入しています。つまりセカンダリ市場から買っています。日銀がプライマリ市場で証券を買うのは一切ダメだ、ということになっています。
 
こちらはブルームバーグ
セカンダリ市場の国債マイナス金利になった、というニュース。

【クレジット市場】マイナス金利のドミノに現実味、黒田緩和の堅持で - Bloomberg

21日は3カ月物がマイナス0.10%と最低を更新。6カ月物も17日に付けた過去最低のマイナス0.05%と同水準で取引された。

 
三ヶ月物の国債金利が-0.1%とあります。
後で出てきますから、これ覚えておいて下さいね! 
 

プライマリ(新規市場)

 財務省が新規発行する国債がプライマリです。
前回紹介した三橋貴明さんのところの記事によると、財務省から五兆円程度の短期国債発行があったとか。
 
[三橋実況中継]国債マイナス金利 | 三橋貴明の「新」日本経済新聞

こちらは日経新聞
プライマリの国債マイナス金利になった、というニュース。
 
短期国債、再びマイナス金利 最高落札利回りは初 :日本経済新聞
 
一部抜粋

平均落札利回りはマイナス0.0041%と2回連続のマイナスとなり、前回(23日、マイナス0.0037%)からマイナス幅が広がった。財務省はこの分だけ民間金融機関から利息を受け取って借金できる。

こんなことも書いてあります。

 日銀は大規模な金融緩和の一環として、短期国債マイナス金利でも買い入れている。より高値で日銀に売ることを見越してマイナス利回りで落札した金融機関が多いとの指摘もある。

 

まとめると

つまり短期国債(三ヶ月)の金利は、

プライマリ金利:-0.0041%
セカンダリ金利:-0.1%

です。ここまでよろしいですか?要するに……
 
セカンダリの方が金利が低い。
つまり値段が高い。


もう解った、という人は、以下、軽く読み流して下さい。
そうでもない、という人は、よ~く考えながら読んでみて下さい。


これはいったいどういう事か。具体的に考えてみましょう。
 

プライマリで新規購入

 銀行が、プライマリ市場で財務省から一兆円の短期国債(3ヶ月もの)を購入するとします。金利は-0.0041%。複利計算面倒なので、3ヶ月≒1/4年だけでやっちゃいます。財務省にいくら支払えばいいでしょうか。


元本 (1000000000000) + 金利 (1000000000000 × 0.000041 / 4) = 1000010250000


1兆円の国債購入に1兆1025万円を払います。1025万円の損失。いったいなぜそんなことをするのでしょう?

セカンダリで即座に売却

これ、セカンダリ市場で日銀が買ってくれます。セカンダリ市場の短期国債金利は-0.1%でしたね。つまり、


元本 (1000000000000) + 金利 (1000000000000 × 0.001 / 4) = 1000250000000


なんと日銀が1兆2億5千万円で買ってくれる。


1000250000000 - 1000010250000 = 239750000


差引で 2億3975万円 の利益、となるわけです。


 短期国債5兆円出たそうですから、これを買って即座に日銀に売ってしまえば約12億円の利益が出ます。銀行屋さんは端末でちょこちょこ作業しているだけで、確実に億単位の利益が出るんです。こりゃたまんねーぜ!


五兆円分の国債発行に対し、五十兆円と、十倍もの申し込みがあったそうで。
そりゃあ「国債市場が活性化」もするだろうよ……

大雑把な流れ

① 日銀が国債を買い集める。とにかく買う!年80兆買う!とか宣言しているので
  高値でふっかけても買ってくれる。

② 日銀が高く買ってくれるので、銀行は持っている国債を売ってしまう。

③ 日銀に国債を売った金で、財務省から新規国債を購入する。
  つまり「国債」を売った金ですぐに「国債」を買う。

④ これをまたすぐに日銀に売ってしまう。つまり②に戻る)

要は 銀行は転売で儲けられると。

パチンコに例えると

 まあ、政府がパチンコ屋だとすると日銀は景品交換所みたいなものです。建前上は一応独立して存在していることになっている、けどどう見たって一緒だろ!っていう。
 で、銀行さんがパチンコ屋に行って、パチンコやるのかと思ったら、玉を購入せずにいきなり現金を景品(国債)に交換。その景品をすぐに景品交換所に持っていって現金に交換。それだけでなぜか儲かってしまう、みたいな話。パチンコ屋なのに誰もパチンコやってない、でも店のフロントと景品交換所は大繁盛っていう。
 
こんなのパチンコ屋として成立していませんよね。あああ馬鹿馬鹿しい。
 

これが最新の経済学だ!!




ところでキャッチ画像が気になった方はこちら。


補足事項!)三ヶ月物短期国債は文字通り三ヶ月後に満期を迎え、償還されます。一兆円の国債だったら、三ヶ月後に一兆円ちょうどで財務省が回収します。ので日が経つにつれてどんどん値下がりし、一兆円に近づいていきます。買った瞬間はプラス二億五千万の価値がありますけど、国債を満期まで保持し続けると確実に損します。よってマイナス金利時はとっとと転売、を前提として購入している、と考えられますね。


※ 続き書きました。こちらもどうぞ。

『国債がマイナス金利』など大した問題ではない(続き) - 強靱化のすすめ


『さくらじ』で中野師匠[要出典]が解りやすく解説されています。2012年2月に放送された動画。なので3年近く前、野田政権期です。がしかし「金融緩和のみに頼った政策」の限界や問題点の話が動画前半に出てきます。現状の『金融緩和』の問題そのまんま。100分近いのですが……興味のございます方は見てみて下さい。

さくらじ#20 無双再び!?中野剛志 登場!! ‐ ニコニコ動画:GINZA