ベーシックインカムとは何だろうか


ベーシックインカムが実現すると、どんな良いことがあるか - クソログ


 ブックマークも大量について、大いに盛り上がっております。ブコメで制度のしくみや財源の話など、概ね出尽くした感もあるけど、なんだかイマイチ煮え切らない感じ。私としては、そもそもベーシックインカム(以下BI)の目的とは何なのか、についての話が足りていない気がしました。ので補足記事を書いてみます。
 
※ BIをよく知らない、という人は、まず上の記事を見てきて下さいね。


ベーシックインカムは究極の社会保障か: 「競争」と「平等」のセーフティネット

ベーシックインカムは究極の社会保障か: 「競争」と「平等」のセーフティネット


この本見ないで記事書くのちょっとリスキーかなあ……
お、つい先日の記事で批判した飯田泰之氏の名前もありますね。
 
※ つい先日の記事、柴山 VS 飯田

柴山無双 - 強靱化のすすめ


まあいいや、とりあえずやってみましょう。
要点は3つ。それぞれについて述べてみます。

1.目的
2.経済モデル
3.財源

1.BIの目的とは何か

 BIとは特定の経済思想、まあ要するに「新古典派経済学」から出てきたアイデアの一つです。「新古典派経済学」とは、1970年代後半から英米で台頭し始め、現代では世界中を席巻している主流派経済学です。リーマンショック以降、アメリカでは徐々に、これではもうダメだ!って流れになってきていますけど。日本や欧州ではまだまだ健在です。
 アメリカのシカゴ大学が中心。世界的に有名な学者といえば、ミルトン・フリードマンロバート・マンデル
 
 この人達がどういう事を言っているのか、どんな経済モデルを提示しているのかを知れば、そもそもBIとは何なのかが見えてきます。末端の政策プロモータ達は政策を実現するための甘言ばかりで本質は一切言わないし、そもそも根底にある、思想や哲学をよく解っていなかったりするのでご注意下さい。


 BIの目的は以下の二つです。BIに限らず、新古典派の提示する政策目的は全てこの二つです。覚えておきましょう。

① 資源配分の最適化
② 投資効率の最大化

 この二つを阻害する最大の要因のひとつが「政府による富の再分配制度」です。BIとはこれを廃止するためのアイデアです。今現在、政府予算で行っていること全て廃止し、全国民に現金で等しく分配する、というのがBIの理想です。BIを「最新の富の再分配制度」と主張する人がいるようですが、それはプロモーションのための方便です。お間違えの無いように。

 恐らく飯田さんなんかはこの二つをちゃんと言ってないんでしょう。理論や目的をすっ飛ばしていきなり具体的な政策実践の話ばかりしてそう。

2.理想的な経済モデル

 現在の日本でBIをやるとして、一人当たり10万円/月程度が妥当であろう、と仮定します。一人暮らしだと結構大変そうですが、夫婦と子供二人の4人家族なら月40万。これならもう働かなくてもなんか普通に生活できそうですね。
 
 ただこれは決して福祉政策ではなく「政府による富の再分配制度」の廃止、が主たる目的であることをお忘れなく。

学校

 小中学校は全て民営化。行きたい人だけ行けばよい。公立の高校、大学も全て民営化。公的な補助金奨学金は一切ありません。10歳の子供には学ぶ自由も遊ぶ自由も働く自由もある。それが「自由主義経済」の理想です。
(現状では憲法的に無理ですね)

国内治安

 警察・消防・刑務は警備会社がやります。火事になったら料金を払って消防車に来てもらう。これは保険に入っていた方が良さそうだな。裁判所や刑務所も民営化されます。どんな事件も民事オンリー。殺人も民事扱いです。なにかあったときは探偵や弁護士を被害者自身、或いは遺族が必要に応じて雇う。こうなったら自分自身の手で加害者を処刑してしまいたい気もしますが、法律はあるからやっぱり「私刑」はマズイかな。

国境警備

 軍隊も廃止です。海外展開するグローバル企業やエネルギー企業などが、必要に応じて傭兵を雇う。東シナ海や日本海で漁業する人は警備艇を雇うか、それとも自ら武装して海賊化?
(隣国のことを考えると、戦闘機や軍艦、戦車まで無くしてしまうのは非現実的なのですが。BI満額支給のためにはやむを得ない。ここまでやってしまうと国家の体を為していませんね)

インフラ

 道路や鉄道も全て民営化。まあ現時点では既に整備されているし、首都圏近郊はとりあえず困らなそうですけど。地方はかなり厳しそう。50年後には道路はボロボロ、橋やトンネルは無くなってるかも。必要がありそうなところは、必要だと思う人が造って通行者から通行料を徴収する。運送関連の事業者とかがやるのかなあ。誰がダムとか造ったり運営したりするんだろう。「政府」を民営化するの?わかりません。

経済モデルまとめ

 とにかく全ての業務を民営化し、必要に応じて金を払ってサービスを受ける。何事も必要だと思う人が、都度お金を払ってやる、ということ。政府予算は限りなくゼロに近づける。政府による(歪んだ)富の再分配制度を無くし、市場原理に委ねて「資源配分を最適化する」のが理想です。

3.理想的な財源とは

 新古典派のいう「資源配分の最適化」とは、各個人が合理的に判断するものです。ゆえに誰がいくら納税するのが最適なのかは、各個人が判断すべき問題。しかしそれでは絶対うまくいかないよな……
 
 新古典派の理想的税制は「人頭税」なのですが、これだとBIが成立しない。ので今回この話は割愛。更に理想を述べますと、例の「資源配分の最適化」「投資効率の最大化」を妨げる、所得税法人税相続税は全てゼロにします。これらは「政府による富の再分配」を重視した税制度です。BIの趣旨とは相容れません。本末転倒です。新古典派的にはダメ!絶対!!

残るは消費税のみ。これは人頭税の次に平等な税制度です。これでいきましょう。

 BIに必要な金額はおよそ150兆円/年。消費税だと加算ベースで60%くらいかな。100円のものを買うのに160円。軽減税率とかは非常にコストが掛かるので一切やりません。

まとめ

 とまあ、言い出しっぺの人の理想を考えてみると、ざっくりこんな感じでしょう。現時点では無茶な話が多い。理想実現のためには、時間をかけて段階的にゆっくり進めていこうとするでしょう。要は構造改革の一部です。経済学なんてのは「イデオロギー」ですから、教典に記されている「教義」や、教祖の「教え」からはみ出たようなことは、ほぼ出来ないと思って下さい。


 「新古典派」は、なぜか国民国家の機能を軽視ないし無視します。大規模な鉄道網や道路網、港湾整備、ダムや堤防などによる治山治水なんか、国家とは無関係に最初から自然に存在していた、くらいの勢いで扱うし、色々と無理がある。

「最新の経済学」って言っても実は250年前、アダムスミスと変わらんし。国民国家産業革命の概念、国土防衛とか眼中にないみたい。



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最後にイギリスの経済学者、ケインズ学派のジョーン・ロビンソン教授の
名言をご紹介しましょう。


「経済学を学ぶ目的は、経済問題に対する出来合いの対処法を得るためではなく、
そのようなものを受け売りして経済を語る者にだまされないようにするためである」



ケインズ学派、ケンブリッジ出身
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ジョーン・ヴァイオレット・ロビンソン(1903~1983)



新古典派の巨匠 その1

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ミルトン・フリードマン(1912~2006)



新古典派の巨匠 その2

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ロバート・アレクサンダー・マンデル(1932~)
 
 
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