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ケインズが封じ込めたもの

歴史 無双!中野学校
東西冷戦とグローバリズム

 ソビエト崩壊まで続いた東西冷戦。これは自由主義vs社会主義、或いは資本主義vs共産主義、といった図式で説明されます。私は、イデオロギーの対立軸としては、これでは説明不足で、そもそも経済学的には「ケインズvsマルクス」だったのだと考えています。そして「東西冷戦」に於いても、「グローバリズム」はとても重要な論点です。
 
 「グローバリズム」というと、ごく最近、二十一世紀になった頃から顕著に始まった現象、と思われる方が多いでしょうか。しかし決してそんなことはありません。グローバリズムは過去に度々起こっています。これは私が読んだ本では、神野直彦氏、中野剛志氏、柴山桂太氏らが指摘していまして、決して特殊な考え方ではありません。

 近年の研究では、十九世紀から二十世紀初頭にかけての時期が、第一次グローバリゼーションの時代、と言われています。*1 ヨーロッパから大量の移民が新大陸へと渡り、盛んに対外投資も行われました。日本からも、たくさんの人が南北アメリカへと移民しました。当時のヒト・モノ・カネの移動は、現代にも匹敵する、とも言われます。
 派手に外国への資本移動が行われると何が起こるのか、といえば、お約束、バブルの発生とその崩壊です。1929年のNY株大暴落から世界的バブルの崩壊、未曾有の世界恐慌が始まり、この十年後には、第二次世界大戦へと至っていきます。この世界大戦へと至る経緯、というのをごくごく簡単に説明します。

 ①ヒト、モノ、カネの、世界的な移動の自由(グローバリズム) → ②バブルによる好景気 → ③でもあっさり崩壊 → ④大量の不良債権 → ⑤ブロック化経済、保護貿易、利己主義的な近隣窮乏化政策 → ⑥各国が激しく対立 → ⑦地域領土紛争 → ⑧世界大戦

 という流れです。⑥や⑦の段階では「ナショナリズム」の台頭があるため、これをもって「ナショナリズムは危険だ」と言われる風潮があります。一見これは正しいようにも思えます。しかし、それはあくまで表層の話です。根本的な原因は「①ヒト、モノ、カネの世界的な移動の自由」にあります。これらの自由な移動は、各国の文化、経済を破壊していく。結局のところ、グローバリズムというのは、目先の欲望に囚われたが故に起こるものであって、長期的に見れば、実は殆ど誰の利益にもなりません。それ故に、その破壊から祖国や故郷を守ろうと、ナショナリズムの台頭が始まるのです。世界大戦へと至った一時的な原因は「グローバリズム」の方にあるのです。ナショナリズムを警戒する必要はあるでしょうが、グローバリズムを放置してナショナリズムだけを危険視するのは本末転倒でしょう。

ブレトンウッズ体制

 ケインズ(John Maynard Keynes)やホワイト(Harry Dexter White)達はそれを正確に見抜いていました。グローバリズムは人類に不幸をもたらす。特に資本移動の自由は絶対に制限しなければならない。 この世界大戦へと至った経緯の反省として「ブレトンウッズ協定」が連合国の間で策定され、1945年に発効されました。「ブレトンウッズ協定」では、為替については、各国の通貨は「対ドル」で固定してしまって、カネの対外移動を強く制限してしまう、という原則が定められました。これにより、世界大戦を招く切っ掛けとなってしまった、投機マネーが世界各国で暴れ回り、バブルを発生させる「カジノ型キャピタリズム」(ギャンブル資本主義とでもいいましょうか)を、なんとか世界的な枠組みで封じ込めることに成功しました。
 
 そして大戦終結後はこのブレトンウッズ協定に沿って、西側諸国は復興へと歩みます。このブレトンウッズ体制に大きな影響を与えたのがケインズの経済思想です。労働者側の論理を重視し完全雇用を目指す、という経済体制のもと、西側諸国は著しい発展を遂げました。経済発展しながら、同時に貧富の格差が縮小していく、という奇跡が起こります。なんとケインズ主義的経済政策の元では、マルクス(Karl Marx)の『資本主義下では貧富格差が必ず拡大する』という経済理論が当てはまらなかったのです。この時期は「黄金の四半世紀」とも呼ばれています。
 
 以上より、1948年頃から顕在化した「東西冷戦」というのは、資本主義VS共産主義というよりも、ケインズ主義VSマルクス主義、という見方がより正確なのではないかと私は考えています。そしてこのケインズ主義、マルクス主義は、共に1970年代から揺らぎ始めます。

グローバリズム復活

アメリカでは1980年代、レーガン政権の頃から新自由主義への構造改革が本格的に始まり、ケインスなど時代遅れ、とされるようになり、ケインズ主義の圧殺を始めます。時期を同じくしてソビエトではゴルバチョフがリーダーとなります。「ペレストロイカ」と呼ばれる改革が始まり、こちらもまた、マルクス主義を棄て、自由主義へと舵を切っていきます。

そしてついに1991年。ソビエト連邦は崩壊、「マルクス主義」は消滅し、東西冷戦はアメリカを始めとした西側陣営の勝利となりました。しかし同時に、実は西側の「ケインズ主義」もついに崩壊してしまったのです。なんとも皮肉なことです。

資本移動は自由化され、サプライサイド、つまり投資家が活動しやすい環境整備、「構造改革」「規制緩和」が世界的に着々と進んでいきます。こうして、いわゆるケインズ理論に基づいた経済構造は次々と破壊されていき、労働者、或いは農協、漁協等の各種組合を始めとした中間団体はないがしろにされ、解体されていきます。同時に政党政治も著しく弱体化していきました。ケインズ主義が崩壊した世界は、マルクスの予言を忠実に辿るようになり、貧富の格差は拡大していく一方となりました。

こうして、世界大戦で何億人もの犠牲を払った上で、なんとかケインズ達が封じ込めた「カジノ型キャピタリズム」は、二十一世紀になってついに完全復活してしまったのです。グローバリズム、或いは世界を股にかけた投機マネーの流通は現代世界の最先端事象、のようなイメージがありますが、とんでもない。これは第一次世界大戦の以前の状態、100年前まで経済の枠組みが退化してしまった、というのが実体だと思います。
 
(やっぱり次回に続きます)

*1:それ以前にも、何度もグローバル化は起こっていますが、現時点でまともに研究可能なデータが残っている時代、ということで、この時期を第一次グローバリゼーション、と表現するようです。