草莽の権力者

 田母神さんの話は過去二回やりましたが、どうもはてなの皆さんはあまり興味がない模様。なので、これ以上やるのはちょっと躊躇するのですが。
 
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 権力構造のケーススタディとしては分かりやすい案件なので性懲りもなくもう一回やります。もうしばらくお付き合い下さいませ。これ前回の、私が首都高で捕まった話と似てる気がするね。

① マヌケな老人が捕まった
② こんな違反、誰だってやってるのになんで俺が
③ 官憲ってのは横暴だ

といったあたり。これは表面的な事象だが、裏で動いている権力の構造も、もしかしたら同じようなものかもしれないと思った。



 現在、田母神さん最後のツイートでこう仰っている。官憲の横暴という趣旨と思うが、これは表面的なことで、本当のところは全く逆の可能性もある。官憲に主体性がない、権力がないからこうなってしまった、というアイデアも考えようによっては可能である。


前に書いたけど、おさらいね。この件は、要するに田母神VS水島です。水島ワンサイドゲームですが。(この件で私は水島さん寄りの意見ですが、あくまで客観的判断です。個人的には、普段の水島さんの意見にはあまり賛同できないことが多いです)

・田母神一派
田母神 俊雄:元航空自衛隊幕僚長。2014年の東京都知事候補
島本 順光 :元航空自衛隊 都知事選挙及び田母神事務所の事務局長
鈴木 新  :元航空自衛隊 都知事選挙及び田母神事務所の会計責任者

 みんな公職選挙法違反で逮捕された。選挙後にお金を運動員に配った疑い。どうやら選挙が終わったら、頃合いを見計らって余剰資金を謝礼として有力支援者に配る、ってのは結構普通に行われていることのように思われる。言い出しっぺと金額設定などを決めたのは島本氏。この人は選挙や政治活動ではベテランらしい。なぜ選挙後2年以上も経ってからこんなことで捕まったのか、ってのは不思議なことではある。

・水島 総
 都知事選の時の選挙対策本部長。衛星・ネットTVのチャンネル桜代表。この人が田母神さんを都知事候補に担ぎ上げた張本人。いわゆる日本の保守界隈では有名な人で、実力者でもある。上記、公職選挙法違反で田母神一派を東京地検に告発した張本人。

 水島さんには島本さんから、謝礼金400万円が提示されていたがこれを受け取らなかった。ハッキリ言って、水島さんとその友人の三橋さんが謝礼金を受け取っていれば、この問題は明るみに出ず、なんの問題も(見え)なかったかも知れない。


 しかしまあ、水島さんに田母神さん側から、政治資金から「謝礼金」を出すという発想が、根本的におかしい。そこを勘違いしている。ボスはどう考えても水島さんなのだから。1億3千万近い寄付金が集まっていたが、これってほとんど水島さんの影響力によるもので、おそらく80~90%以上が水島さんの功績。それだけ保守派からは草の根レベルで信用・信頼されている。あてにされている。志のある人物。

 田母神サイドは、せめてもう少し水島さんの意向をくむべきだったろう。8000万以上もの残金を前に目がくらんでしまったようだ。水島さんと別れて、その後の遊びっぷりなぞ舛添さんの比じゃないし。放っておいたら一年以上も経ってから凄まじい使途不明金が発覚してしまい、水島さんにしてみれば、自分を信じて寄付してくれた多くの人々に申し訳が立たない、忸怩たる思いでいたことでしょう。そもそも田母神さんなんぞを担ぎ上げたこと自体が大間違いだったのだ。


 この件をスクープしたのは週刊文春(Sentence Spring)ですが、そもそもタレ込んだのが水島さん周辺、或いはご本人なんじゃないかと思っている。東京地検に告発したのも水島さんだし。この件で水島さんは「政治資金規正法で不起訴になるようなら検察審査会に異議を申し立てる」とまで言っている。田母神と島本はゼッッッッッッッッッタイに許さない!絶対に潰す!!という強い決意が感じられる。この件、ネットで田母神擁護の水島批判ってのも散見されるが、あまりにアクロバティックで読むに堪えないトンデモばかり。脳の存在を疑わざるを得ない。田母神サイドに擁護できるポイントが見あたらない。逮捕案件については「だってみんなやってるよ!なんで俺だけが!?」くらいか。まあでも、これ言ったら罪状を認めたことになっちゃうから、本人は言ってないけれど。


 東京地検が中途半端に動いたのは結局、Sentence Springによる騒動で告訴され田母神さんにダーティなイメージが付き、放置しづらくなったということと、とにかく水島さんからのプレッシャーが凄かった、というところか。東京地検としては、どうせ起訴などできなさそうだし、本心ではやりたくないのだけれど、でも世論と水島さんに逆らえない状況になってしまったし、放っておくと「仕事しろ!」と批判が来るし、たとえ起訴できなくても社会的制裁にはなるだろう、という空気を読んでの逮捕でしょう。


ということで、東京地検には主体性など全く無い。民意や情念という空気に従った曖昧な行動原理と推察する。


 今後、田母神さんの政治家としての活動は困難か。そんなに強いエネルギーと志のある人ではなさそうだし、良かったんじゃないの。この人には志がなさ過ぎる。政治家としての矜持などそもそも無かったのだ。カネに目がくらみ、自衛官としての矜持も失ってしまったのだ。このケースでは水島さんもSentence Springもよくやってくれた、としか言いようがないな。


 水島さんは多くの支援者のおかげで自分の活動が成立していると分かっているし、そもそもそれが活動目的なのだ。彼の志は、彼なりに考えた「公徳」に基づいている。だから多くの人々から信用を得ている。リーダーとして信頼されている。多くの寄付金が集まる。水島さんなら、ちゃんとやってくれるだろうと。どんな形にせよ「多くの人々の支持を得る=権力を得る」というのが現代の権力構造には必須である。まあ、数千年も前からそういう傾向だったらしいが、とくに現代の国民国家ではそれが顕著になったという。保守界隈の草の根レベルでは水島さんに権力がけっこう集中している。でも本人はそれが「自分個人の権力」だとは全く思っていない。支援者達の想いを汲み、ともにあり、ともに行動する、というスタンス。ゆえに「権力者」として田母神氏に制裁を加える力を持つ。とまあ、本件はそういう構造だったと思う。

田母神島本サイドはそれが全く分かっていなかった。どうして1億3千万ものカネが集まったのか。全くなにも分かっていなかった。

交通取り締まりについて

 こじつけがましい話になるんですが。前回の、私が捕まった話。騒音苦情地帯だったかも知れない。するとね、こう考えられるんです。

 マンション住人や組合から「首都高の騒音公害をなんとかしてくれ」と地方自治体に苦情が行ったり、知り合いに議員がいたりすれば直接訴えたりする。で、制限速度を80→50kmにしよう、みたいになったりする。でも看板を付け替えるだけでは実効性がなく、騒音がおさまらなければ警察に苦情がいく。「どうなってんだ!みんな違反してるじゃないか!なんで放置するんだ!!」 仕方ないので、当該箇所で取り締まりを行う。すると「ここはしょっちゅう取り締まりやってる」と通行車に認識されるようになるので、通過速度は全体に下がるようになる。騒音も減るかも知れない。いずれにせよ、ちゃんと取り締まりやってるんですよ、と住民にも説明(言い訳)もできる。

 まあ、私のケースがそうだったかは分かりませんが、確実にそういう取り締まりが東京都内、横浜川崎辺りにもあるでしょう。というわけで、決して無駄で馬鹿げたことをやっている、とも限らないんじゃないか、ということです。これもまあ一面的な話かも知れない。これをもって前回リンク張った賛嘆若人さんの話がデタラメだ!ということでも決してない。ああいった問題というのも存在するのでしょう。



 これが基本的な現代民主主義の権力構造の原則です。権力を直接的に行使しているのは確かに官憲ですが。でも彼らは多くの人々の集合意識に動かされ、都度、曖昧に動いている、ということが実は大部分だったりする。意外と「民意」で動いているのです。これは全体主義の構造と全く同じなんだけどね。つーかね「全体主義」ってのは、こういう「民主主義」的な「空気」からしか発生しない。だいぶ長くなったので、この話はまた今度ね。