実質GDPと名目GDP

 実質GDPと名目GDPについて、内閣府の公表している資料には当然どちらも出ていますが、マスコミ報道のたぐいだと、「実質GDP」ばかりやたら強調していて、「名目GDP」の方は扱いがおざなりな印象です。そりゃあ、名前からして「実質」の方が重要なんだろ?って気がしてしまいますが、どうなのよ。

では、ここでシミュレーションです。
・2012年度

大A帝国にある「A自動車」という自動車メーカ、2012年に100台の自動車を売り上げました。1台の単価は100万円でした。ここでは、計算を単純化するため、A自動車が「無」から自動車を作り上げたと仮定します。なんか変っつーか、ありえないですけど、気にしないでね。だってその方が計算解りやすいじゃあないですか!(ゴリ押し) で、この時のGDPは、

100万円 × 100台 = 1億円

というわけで、A自動車2012年のGDPは1億円。これを基準として考えます。
ので、名目も実質も1億円です。

・2013年度

さてさて翌年。2013年は、ライバル社や他国メーカとの競争に勝つため、価格を95万円に値引きして販売し、103台を売り上げました。デフレ状態ですなー。

95万円 × 103台 = 9785万円

販売台数は増えたけど、売り上げは減りました。この時の「名目GDP」が9785万円です。「名目」の方が実際のお金を表します。名目成長率は-2.15%。マイナス成長ですぞ。去年より3台も多く販売したのに、売り上げが下がっているぞ!製造も営業も去年より頑張ったのに……給料が減ってしまったり、最悪では人員削減もあり得るぞ!会社の危機じゃあないのか?大丈夫か!?

さて、「実質GDP」の方はというと、基準年ベース、つまりここでは前年ベースで計算します。昨年の価格は 1台100万円だったので、

100万円 × 103台 = 1億300万円

実質経済成長は、なんと+3%です。実質3%も成長したぞ!と言って喜んでいる場合なのか? 

中間まとめ

 とまあ、いうわけなので、「実質」成長がプラスだ!ということだけに注目するのはあまりよろしくありません。実質(仕事)の評価として名目(お金)が提示されるので、我々が明確に実感するのは、むしろ「名目」の方なのです。

 実際、この例の「A自動車」の如く、デフレ状況下では徐々に物の価格が下がっていきます。すると物は買いやすくなるので、売上げ数量自体はやや増加する傾向にあります。よって概ね、デフレ状況下では名目GDPは下がり、実質GDPは上がりやすい傾向にあります。デフレが深刻でも、意外と実質GDPは伸びたりします。ので、「実質GDPがプラス成長だ!」なんて『実質GDP』だけに注目して喜ぶのは非常にまずい。重要なのは評価としての『名目GDP』がどうなのか。ということで、名目GDPとのバランスに注目しましょう。

A自動車の現状

 A自動車の場合、設備投資などで工程改善し、見込み生産コストが下がった、ということなら、それはそれで、いいのですが、余剰人員が出て人員削減があったかもしれません。他に仕事があればいいのですけど。しかし、ライバル社との競争圧力、海外や世間からのデフレ圧力に負けて、特になんの見込みもないのに販売価格を下げざるを得なくなってしまった、ということだと、結構まずいし、デフレ状況だとそういうことになりやすい。

 デフレ圧力により仕方なく値下げしたんだったとすると、2013年度は確実に収益は悪化していますよね。従業員の給料は下がっているだろうし、ボーナスも出なくなったでしょう。クビになった社員がいるかもしれない。経営が赤字になって法人税は払えなくなったりします。すると当然、大A帝国の税収もその分減る。A自動車からの法人税収はゼロになり、従業員からの所得税収も当然減少します。自動車の売上げ額も減ったので、消費税収も減少。

大A帝国のゆくえ

 デフレ下では、こんな具合に全ての税収が減ってしまって、こりゃまずい、緊縮財政をしなければ!となりがちです。すると公務員の給料を減らす、人員を減らす。公共事業を減らす。ので公務員が失業者になったり、土木・建設業の失業者も増加。廃業せざるを得ないところも出てくる。インフラ整備もままならず、老朽化対策保全も出来ない。すると自然災害などで簡単に橋やトンネルが崩落する恐れがあり、国民の生命は危険にさらされます。

 国防費も減らさねばなりません。軍の装備が弱体化して、訓練時間も減り、人員も削減。防衛力が削がれて離島防衛もままならなず、近隣国にも舐められっぱなし。こんなことでは国民の生命・財産が危機に晒されてしまいます。
 失業者は増加して社会不安が増大、犯罪増加、自殺者増加。インフラもボロボロ、国土保全も防衛もままならない。やばいぞ大A帝国、滅亡への道を歩んでいるぞ!というわけで!デフレというのは単に「モノの値段が下がっていく貨幣現象」というだけでなく、国家を滅亡へと導いていく、恐ろしい現象なのです。
 
 まさに列島脆弱化!というわけで、「デフレ脱却」は、実は「国土強靱化」の最優先課題の一つなんです。


 ……いや、今回は「大A帝国」という、仮想国家のお話でした。じゃあ次は、現実の日本はどうなのよ、ってのをデータを見ながら分析してみましょう、ということで次回に続きます。