ケインズとハイエク

鋼鉄淑女はどうよ

 私の知人、Tさんの曰く「イギリスのマーガレット・サッチャー首相は立派な人だ」と。そうおっしゃるのです。
1970年代、福祉政策に偏りすぎて労働生産性が低下していたイギリスは「英国病」だの「ヨーロッパの病人」だのと揶揄されていました。その惨状から英国を立ち直らせた英雄、いやいや英雌っていうのか?女性だし。まあそれはともかく、「英国のアイアン・レディ」ってことで世界的に有名な人ですね。
サッチャーさんの掲げた改革、元ネタはフリードリヒ・フォン・ハイエクという学者さんの理論に基づいています。或いはアメリカのミルトン・フリードマン先生の経済政策。どちらの先生も、いわゆる「新自由主義」的な思想の持ち主で、それまでの主流であった「ケインズ経済学」を徹底的に批判します。つまり、ケインズ経済学の創始者であるジョン・メイナード・ケインズ先生のライバル、というか論敵ですね。(ケインズハイエクフリードマンはきっと今後もよく出てきますので、覚えておいて下さいね。テストにも出ますよ!)
 ケインズハイエク、基本的には正反対の経済学を掲げていました。ケインズ=デマンドサイド経済学(需要側の経済学)、ハイエクサプライサイド経済学(供給側の経済学)とまあ、そんな感じです。それぞれの先生とも、本当はもっと色んな考察があって、私なんぞが解説するのもおこがましい、というか大して解っていないので、解説不可能なんですが、極々おおざっぱに言ってしまうとそんな感じになるかと。ちなみにケインズ的経済政策を重視する人を「ケインジアン」いいますね。

ブレトンウッズ協定 から ワシントン・コンセンサスへ

 第二次世界大戦末期、イギリスのケインズ、アメリカのハリー・デクスター・ホワイト先生らが中心になって知恵を絞り、世界大戦終結後の「荒廃からの復興」「平和的な経済発展のあり方」などについて協議がなされ、そして1944年、当時の連合国の間でブレトンウッズ協定が締結されました。大戦終結後は、いわゆる「西側諸国」はこのブレトンウッズ協定に基づき、戦後復興と、そして安定した経済成長を続けていました。しかし1970年代になると、インフレーションからスタグフレーションオイルショック、長引くベトナム戦争など、様々な問題から、世界経済は行き詰まりを見せるようになりました。
 この間隙をぬって台頭してきたのがハイエク先生、或いはフリードマン先生の掲げる、新自由主義的な経済政策です。シカゴ学派って呼ばれている先生方で、ハイエクフリードマンシカゴ大学の先生です。ケインズ政策など、時代遅れの誤ったやり方だ!ということになり、イギリスのサッチャー政権、アメリカのレーガン政権から始まった新自由主義改革は、世界中を席巻するようになります。サッチャーイズム、レーガノミクスってことで有名ですね。この、世界的に広まった政策を「ワシントン・コンセンサス」といいます。つまり、世界経済の枠組みは、
1945~1970年代 ブレトンウッズ体制 (ケインズ、需要側重視)
1980年~ ワシントン・コンセンサス (ハイエクフリードマン、供給側重視)

という具合に大転換しています。
 冒頭のTさんも、ケインズ経済学など時代遅れ、ゼネコン金権政治の権化、ケインズ=箱物大王ってな認識でして、政治腐敗の根源のように考えているようでした。というわけで、Tさんはハイエク派なんだな、と私は認識していました。

小泉政権はどうよ

 偉大なる大英帝国の英雌、サッチャー首相の政策に、最も近い日本の政権と言えば、小泉政権です。シカゴ学派の掲げる経済政策を徹底的に遂行しよう!というのが小泉政権のブレイン!であった竹中平蔵先生や大田弘子先生。現在の安倍政権においてもこの両先生、重用されていますね!うおお!ワクワクするぜぇ!
というわけで、ハイエク派のT氏、さぞかし大喜びなのかと思いきや!?
小泉政権当時、小泉はけしからん!小泉が日本を駄目にした!メチャクチャにした!と物凄い怒っていました。どどどどうして?ハイエク派だと思っていたのに!?サッチャー首相が立派な人だ、サッチャー改革は正しい、と言うなら、シカゴ学派の経済学が正しい、ということなんだから、つまり小泉竹中大田絶賛なんじゃないの!?もしかして同族嫌悪?と思ったのですが……でも確かに、ケインズ経済学的な政策の中で高度経済成長を成し遂げ、世界第二位のGDPを誇る経済大国となった日本を、大きく変えてしまったのが小泉政権、という認識は間違っていません。

麻生政権はどうよ

じゃあじゃあ、小泉政権と正反対、ケインジアンの麻生政権はどうよ?と聞くと、あんなバラマキゼネコン野郎は許せない!けしからん!と宣います。
……で、ですよねー!麻生さんはケインズ派ですから、ハイエク派なら当然!そりゃそうですよねー!でも、供給側の経済学もダメ!需要側の経済学もダメ!となったら、じゃあどうすればいいのよ!?打つ手無しじゃんか。いったい日本はどうすればいいんだー!?と聞くと    
一つだけ素晴らしい解決方法があるという。
(次回に続く)


 ケインズハイエクに興味のある人、松原隆一郎先生に聞いてみましょう!

ケインズとハイエク―貨幣と市場への問い (講談社現代新書)

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