岡田斗司夫が支持される10の理由
最近、岡田斗司夫さんが気になっています。私の(とても狭い)観測範囲では、若い人に結構支持されているようでして。私が最初に岡田さんを知ったのはこちらの記事。
正直言うと、最初はホリエモンと聞いただけでなんだか胡散臭く感じてしまいました。でもこう、頂点からどん底まで経験してなお前に出てくる人って、よくよく考えてみると凄いですよね。Shizukaさんもこう言っていることだし、一廉(ひとかど)の人物であることは間違いない。今回はまあ、岡田さんの方の話です。
はてなブログではしっきーさんがよく岡田さんを推しています。読み応えのある記事でした。上の記事では岡田斗司夫さんの動画リンクが貼られていました。ので、見てみましたよ。こちらの動画です。
ニコ生岡田斗司夫ゼミ 05 「ニート革命!働かなくていい10の理由」 ‐ ニコニコ動画:GINZA
これは……
システマティックな思想体系が構築されていて、その上での的確な現状分析。これは慎重にならざるを得ません。……っていうか無理!
もっと本読んだりトーク動画見たり、自分なりの水準で体系的に解釈出来なければ、論じることは出来ない。生半可な知識や思いつきで、うかつな記事を書くと恥をかきそうです。ので、現時点では残念ながら、たいしたことは書けそうもない。
しかしまあ、無理!だけでは記事にならないので、面白かった点や気付いたことなど。記事を書いてみるべき10の理由があります!頑張って書いてみますよ!
1.ちゃんと読んだ?
岡田斗司夫さんに批判的な意見て、はてなでもたまに見かけますが、本のタイトルとかで反感・偏見を持ってしまう?のかな、くだらん、って感じで割と安直な批判が多いように見受けられます。なんか全然読んだり話聞いたりしてなさそう。それもったいないなあ。どうしても嫌いなら仕方ないけど。「思考停止」に陥っていませんかね? って私もまだ動画をちょっと見ただけですけど。面白かったですよ。以下、岡田さんを嫌いな人の分析、みたいな話も出てきます。
2.システム論と個別論
動画中で岡田さんが教育や就職の問題を論じている時に「今の大学生がバカ(だから仕方ない)」みたいなツッコミがあったのですが、それに対して「システムの問題を論じている時に個別の話をするのは一切無駄」と喝破しています。これね。大事なんですよ。
システム論を軽視している人って結構多い気がする。で、個人のスタンスのまま、政治や経済を尤もらしく論じる。システム論としては無茶苦茶になっているのに全然気にしない。そんなの知ったことかって。で、ある人は政治が悪いんだって言うし、またある人は自己責任だと言うし。
どちらもいわゆる「合成の誤謬」を無視している。
3.合成の誤謬
「なぜ就職できないのか」という問題は、個人の勝ち負けとか自己責任に帰結させられる社会構造になっていない。システムが成立していない。岡田さんはそういう話をしています。これ、いつもの分野で例を挙げてみましょう。
個人レベルの道徳では「貯金=善」「借金=悪」ですよね。しかし皆が皆、借金せずに貯金ばかりしていると、世の中を流通する貨幣量が減少し、デフレになって経済が萎縮します。これが「世代間格差」の要因にもなっているのですが、今は取りあえず脇に置きます。
実は「資本主義システム」は誰かが借金しないと成立しない。借金した分だけ貨幣量が増加し、借金の分だけ「経済成長」するのが資本主義の原則。つまり「借金こそが善」。誰かが借金しないと資本主義は成立しないのです。
そういった意味で、もう「資本主義」自体に無理が生じているのではないのか、というようなシステム自体の問題、そもそも論には充分意味があると思います。岡田さんがしているのは、そういう話。
「国の借金」が増える、とはそういう問題。政府が借金しても、その借金分を国民が貯金してしまうから経済成長には結びつかない。資本主義自体がもう行き詰まっている、というシステム自体の問題です。
そんな状況なのに、そんなの知ったことかと「政府の借金」批判するのは如何なものかと。「借金はダメだ!カネ返せ!」というような個人道徳レベルの感覚で話をするのは、システム問題の前では無駄です。馬鹿げている。
4.方法論的個人主義
上に似た話。岡田さんのお話からはちょっと外れますが、近年の傾向として「方法論的個人主義」というのが流行っているらしく、こういうシステム論をバカにする傾向があるようです。これ、私もよく解っていないのですが。
「個」を分析し、それを拡大すると「全体」になる。「全体」とはバラバラな「個」の集合体であって、存在するのは「個」だけであり「全体」など本当は存在しない、とみなす考え方、手法らしいです。
代表的なのが現代の経済学で、各個人いわゆる「合理的経済主体」が「効用最大化」を目指すのを最優先させることで、資源分配が最適化される、ので素晴らしいって考え方。
「個人」がそれぞれ勝手に「幸福」を追求することで「全体」がうまくいく、という。徹底した個人主義者はこの考え方を好みます。「個人主義原理主義」って感じ。
この影響なのか、個人レベルの話を「世界」や「歴史」に直結しちゃってる、みたいな人って意外と多いような。それが当然だってスタンス。以前著書を紹介した古市憲寿さんもそういう傾向あったと思う。はてなブログでも結構見かけます。
例えば、アメリカへ行ったらアメリカ人がとても親切でアメリカがますます好きになった、というのはいいとして、その個人体験をベースに「世界最大の親日国アメリカ!」とか言って、更にその延長で政治や外交の話までしちゃうのって、どんだけ「セカイ系」なのよっていう。
個人の体験をそのまんま集団や歴史に当てはめるのって、礼賛にしろ批判にしろ、スゲー傲慢に見える。「大きな主語」の使い方に違和感ありまくり。まあ、そういう人ってやっぱり炎上しやすいみたいですけどね。
「システム論」と「個人論」は別々にアプローチして下さい。最終的に結びつけて考えるのは必要だと思いますが。最初から同一視しちゃうのってどうなのよ。
5.政策論
ごく大雑把に政治経済思想のカテゴライズをしてしまうと、私の考えとは異なる点が結構多いです。岡田さんの考えでは、
① 小さな政府 ② 財政縮小 ③経済縮小
でした。これ、私が推している「国土強靱化」の提唱者、藤井聡氏は、
① 大きな政府 ③財政拡張 ③経済成長
という具合に、ほぼ正反対。
この段階で「岡田斗司夫はけしからん!経世済民が分かってない!」とか頭ごなしに否定してしまったら思考停止です。そんな簡単に切り捨ててしまっては損です。「国土強靱化原理主義」なんて、藤井師匠が最も嫌うところ。それに、現状分析としては両者共通する点もあります。最先端経済学の実効性のなさ、の認識はほぼ同じ。
では、両者の相違はどこから来るのか?と言えば割と簡単で、藤井さんは主に短期の話と政府への提言、岡田さんは主に長期の話と個人への提言、をしている。私の印象では、藤井さんは10年先、岡田さんは50年先まで見据えた話。これはどちらかが絶対的に正しいとか間違っているとか、そういう話では全く無い。両者の話共に理解する、というのは決してダブルスタンダードではない。ちゃんと議論すればアウフヘーベンへと繋がります。
というわけでこの両者、「最新の経済学」信奉者からは、コイツらなんも分かってないとか有害だとか言われそう。二人とも間違っている!そういう決めつけは「思考停止」の証ですよ。
6.現代経済学のおかしさ
経済合理性を優先させると例えば「美人の嫁」なら週五日はデリヘルに出るべき、なんてことになっちゃうよね?という話が出てきました。ご本人は極論・暴論だよ、と断っていましたけど。これはまさに仰るとおり。現代経済学では人間は「合理的経済主体」であり、効用最大化の達成が目的です。「美人の嫁」のおかげで、より多くの人の「効用」が「最大化」され、その経済的評価として「嫁」は多額の報酬を得られる。素晴らしいではありませんか!そんなの暴論だ、と思うでしょうか。でも完全にそういう理論で現代経済学はできています。
これと似た話を、最近佐藤健志さんから聞きましたよ。こちらは有料なんですけど。
きれい事ばかり言って現実から目を背けていると、今の経済システムじゃあ「女性が輝く社会」って、こうなっちゃうよね。三年前に岡田さんが言っていた話が現実社会で進行している、という怖いお話です。
7.水野和夫氏との共通性
前回著書を紹介した水野和夫氏も、経済財政の縮小均衡は避けられない、という考えでした。水野さんは経済の歴史研究、近現代のデータを精緻に分析されていて、500~1000年スパンの話をしています。
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話の内容やアプローチは岡田さんとは全く異なります。が、分析結果や到達した考えには共通点も多い。この本を読んだのは三ヶ月くらい前で、多くの示唆に富んだ内容でした。これは記事に書こう!と思ったのですが。難しくて書けない……この「書けない」感じが同じ。本を数冊読んでみたり、トーク動画を何本も見たりして、自分なりの水準で自分のものにできてないと。書けないんですよ。
8.脱国家
人々は社会的活動を国家に頼ることで、無責任で傲慢になっている、という話がありました。ゆえに脱国家を目指せ、という。いわゆる「小さな政府」論です。オルテガの「大衆論」的な見地から「小さな政府」を論じているのが特徴。
「国家は悪巧みばかりして腐敗する」というハイエク的リバタリアンの「小さな政府」論とは逆のアプローチ。政府は無駄だから小さくしろとか、なぜか「保守」=「小さな政府」だ、と思い込んでいる連中とは全く違う。
で、じゃあどうすればいいのか、といえば、自分たちの役割を国家から取り戻せ、という。自給自足で助け合い、みたいな話も出てきます。反原発にしろそうでないにしろ、税金や料金さえ払ってれば誰かが勝手にやってくれる。何でもかんでも誰かが何とかしてくれる。それが当たり前、なんて考えはやめよう、って話はなるほどよく解ります。
ただこれ、具体的にエネルギー問題と食糧問題はどうするのかな、という疑問は残りました。この動画では、この辺の具体的な話はあんまり出てきません。50~100年くらいのスパンならそんなに心配しなくてもいいんじゃない、というくらいの話しか出て来なかったので。ここはもっと調査してみた方がよさそうかな。
人間が生きていく上で不可欠な「食料」と、文明を維持する上で不可欠な「燃料」。人のエネルギーと文明エネルギーの問題。紀元前から常に戦争の原因となり続け、未だ人類はこの問題から解放された訳でもなく。
9.進歩主義の終焉
産業革命&フランス革命以降200年余り、世の中は進歩主義「信仰」でやってきましたが、これがいよいよ終焉を迎えている。どうでしょうね。私の世代から上だと進歩主義が単なる「信仰」に過ぎない、と言われてもなんのこっちゃサッパリ分からん、という人が大半のような気がします。むしろバカにされますね、きっと。私自身もこれをはっきりと認識できたのは割と最近です。
これを実感として持てるか否か、が「未来格差」の鍵になるかと。
また話がそれますが、建国二百年あまりの世界帝国アメリカは、この「進歩主義」以外の価値観が無い。その進歩主義のフロンティアが実は日本だったという。現政権の政策担当の中心人物って、アメリカンフロンティアの「信者」ばっかり。行き詰まったいびつな「バーチャルフロンティア」が現代金融の世界。まあ、2008年にもう崩壊しているんですけどね。もう6年以上経ってるのにまだ気付かない。フリしてるだけか。タチ悪いねえ。
10.未来格差
この動画、2011年10月のもの。今から3年も「過去」じゃないか……なんで今頃見てんだ俺。3年も遅れてるじゃないか!もっと早く教えておくれよ!って誰に言ってんだ?
動画中に「未来格差」という言葉が出てきます。今の世の中どうなっているのか、について(例えば)この動画を見た人は、何かに気付き、色々考えたりできる、という意味合いで使われています。別にこの動画限定ではない。動画でも本でも、重要な示唆に富んだ考察に触れるというのは有意なことです。
これですよこれ!未来を見通す力!いったいこれはどこから来るのか!?これこそ保守論者の鏡です。いや別に岡田さんは保守論者って訳じゃないか。しかしまあ、以前紹介しましたが、「フランス革命の省察」のエドマンド・バークは、十年先、二十年先まで的確に見通していました。そして十九世紀半ばのフランスの政治家アレクシ・ド・トクヴィルは、アメリカを旅し、分析・考察した結果、いずれアメリカとロシアが世界を二分するだろう、と予言したそうです。これ、イギリスが実質的に世界を支配していた十九世紀の話なんです。そして百年後、まさに世界はトクヴィルの予言通りになった。
という具合に、賢者には未来を見通す力があります。これぞまさに未来格差!いったい未来格差はどこから来るのか!? 実は、これこそ「無双!中野学校」で教わっていたことのテーマでした。「未来格差」という言葉は使われていませんでしたけど。
おわりに
おお、いつの間にか10コ書けたぞ。書き始めた時は4つくらいしか思いついていなかったのに。まあ、あんまり大した話は書けませんでしたが。よくよく話を聞いてみると、そんなに突拍子もないことを言っている訳でも無いです。引き続き著書や動画など見てみようと思いました。
うちのブログ的には、まずこの辺かな。
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