サプライサイド経済学とは何だろうか

 え~、前々回の続き。「供給能力」が重要だから、サプライサイド経済学で供給力を強化せよ!って話はヘンだ、って話です。
 
 供給能力を高めるため、「サプライサイド経済学」を重視した政策を取ればいい、なんて人は、結構いるようです。実際に「サプライサイドを強化する経済学」と説明されます。しかしこれ、言葉のまやかしというか。全然違う、としか思えないんですよ私は。現実問題として、この経済学に基づいた政策のせいで、サプライサイドが(最終的には)弱体化するケースも多々あります。

切磋琢磨!

 「サプライサイド経済学」をごく簡単に言ってしまうと「自由競争で切磋琢磨」です。そういう環境を整えようと。政治家でもこれ好きな人が結構いますね。大阪維新橋下徹氏とか、みんなの党の渡辺よしみ氏とか、結いの党の江田憲司氏とか。しょっちゅうこればっっっかり言ってる気がします。「自由競争で切磋琢磨」。ムダ削減!の民主党もそういう人は意外といる。現在の自民党にはあまり多くないですが、でも政府の方はすっかりこの方針です。

 まともにやると価格競争が激化します。まあ確かに、それは消費者にとってメリットになるように思えますね。でも実のところ、供給側にとっては非常にきついことになります。社員の福利厚生や安定した正規雇用、なんか重視していると、コストがかかりますよね。長期的には従業員のモチベーションアップや成長に繋がるので、有効な投資になるはずですが、3ヶ月毎の決算、などでは成果は出ないので、無駄に見えるわけです。短期的、瞬間的には競争力が落ちています。短期的な勝負では、ズルしたヤツ程、勝つのですよ。

 「自由競争で切磋琢磨、のため、足枷となっている規制を緩和だ撤廃だ」というわけですが、結局は自由にズルし放題、なんて方向に行きがちです。非正規雇用が増加するし、モチベーションは下がる、供給品質は低下するし、製造や輸送業だと、設備や機器のメンテがおろそかになって労働者は危険に晒されるし。「悪貨が良貨を駆逐する」方向に必ず進んでいきます。真面目な業者、つまり生産性の低い業者はどんどん淘汰されていきます。事実上底辺への競争、へとなっていくわけです。ので、そういう短いスパンで見ると、いわゆるブラック企業ほど価格競争力が高い。

ブラック国家

 更に、外国の例を挙げると、例えば中国やインドは、急速な工業化の反面、酷い大気汚染や水質汚染などの公害に悩まされています。この対策を真面目にやると、大変なコストがかかります。そんなことに取り組むと、ベトナムミャンマーに価格競争で負けてしまう。ので、放置しておいた方が生産性が高いわけです。「ブラック企業」ならぬ「ブラック国家」でしょうか。

 結局はサプライサイド=ブラックサイドというか。「ダークサイド経済学」というか。「フォースの暗黒面」ならぬ「経済学の暗黒面」に落ちた、とでも言いましょうか。製造業だと、日本はもう、中国やASEAN諸国に殆ど勝てない。結局勝てる分野に限定して、選択と集中が徹底されていき、とことん無駄が省かれる。最終的にはぎりぎりまで供給能力は削がれてます。日本はもう第一次、二次産業なんかやめちまえ!って話になります。「競争力がない」「無駄」とされてしまった産業や企業、その従業員は失業者と化していきます。どうしても続けたければ「ブラックな外国の水準」に勝たなければならない。或いは外国人を連れてくるか。この状態を「理想的な需給バランス」と言います。

 しかしこれ、ちょっと考えれば解るのですが、非常に短期的、局所的、ほとんど瞬間的な話です。「選択と集中」を徹底すると、災害やテロ、経済ショックなんかに非常に弱くなる。長期的な個人の技術的な成長も望めないし、捨ててしまった産業は技術やノウハウも失われる。だから非常事態があると全く対応できなくなります。

 地球の裏側で起きた自然災害の影響なんかも派手に受けたりします。穀物や家畜飼料が暴騰したり。投機マネーが暴れて小麦やエネルギーが高騰したり。イスラエルが暴れたりすりゃペルシャ湾封鎖で燃料ストップ。まあ、この辺の問題、世界では200年前にも、100~80年前にも経験しているんですけどね。

手前味噌な参考記事世界大戦の教訓 - 強靱化のすすめ

 そうやって生産効率を最大限に高めるのが「サプライサイド経済学」です。非常事態には極端に弱い、削ぎ落とされたヤツは違うことを目指すか、それが出来ないなら死ぬしかない。国土強靱化どころか、脆弱になるばかりじゃないか!これのいったいなにが嬉しいのか。というと、短期利益が最大限になりますので、株主への配当金が極限まで高められる、ストックオプションを持つ役員の給与が高騰する、というわけです。配当金が高い株は人気も出ますから、株価も上がりそうです。某総理大臣も大喜びです。最大限の利益を上げて絶賛されている会社といえば、サムスン電子が有名です。サプライサイド経済学が徹底されている国が韓国です。まあIMFが無理矢理やったんですけどね。哀れなり韓国民。で、今の日本政府、というか「経済財政諮問会議」「産業競争力会議」の連中は、日本企業をサムスン化したい、というか、日本を韓国化したい、ようです。安倍首相って、韓国を敵視しているようで、実は韓国にシビれる!あこがれるゥ!

 「サプライサイド経済学」とは、結果的には「モノやサービスのサプライサイドを優先」ではなくて「お金のサプライサイドを優遇」する経済学だったようです。元祖の提唱者、アダム・スミス氏の理論からは随分と離れてしまったようで。強欲資本主義者(Greed Capitalist)に都合よく利用されてしまっているようです。


※ 続編記事です。是非こちらもご覧下さい!

新古典派経済学入門 - 強靱化のすすめ