共和党 vs 民主党

さて、前回の続き、中野学校の宿題・回答編3です。初見の方はこちらへ。

出題編 :Mission Impossible(予告) - 強靱化のすすめ
回答編1:Group of Seven - 強靱化のすすめ
回答編2:プーチン vs オバマ - 強靱化のすすめ


 今回は、『アメリカの弱腰は「オバマ問題」であって「米国問題」ではない』という中西氏の見解について検証します。再三リンク貼っていますが、以下の辺りですね。

クリミアと尖閣は表裏一体 日米同盟の緊密化が世界秩序を維持する WEDGE Infinity(ウェッジ)
 

オバマ氏個人の問題?

 これはまあ、気持ちはわかります。確かに同盟国の立場からすると、最近の傾向として、民主党の大統領はイマイチ信用できない。例えばレーガンやブッシュのような共和党の大統領だったら、中国がここまで増長できないはずだ!オバマの次に、共和党の候補が大統領になれば、アメリカは「世界の警察官」として復活するはず。そこまで耐えれば!と考える人は結構いるようです。民主党は日本の敵だ!(アメリカの民主党ですよ)或いはまあ、民主党でもいいけどオバマはダメだとか。

豪腕大統領

 かつて、アメリカ合衆国がまだ新興国だった時代。バブル崩壊、そして大恐慌のどん底から、世界を支配する超大帝国へとアメリカを導いた、凄腕の大統領がいました。フランクリン・ルーズベルトです。バブル崩壊大恐慌からの復活、という意味では、オバマ大統領とルーズベルト大統領の境遇は似ている、とも考えられます。オバマがしくじったなら、次の大統領はやってくれる!と期待するのも、確かに有りなのでしょうかね。
 ルーズベルト大統領は、どうやって大成功を収めたのでしょうか。成功の鍵は「ニューディール政策」と「第二次世界大戦」にあります。さらに、ルーズベルト没後になりますが、後継のトルーマン大統領が主導した、マーシャル・プランによる大戦後ヨーロッパ復興への尽力なども挙げられます。この、ルーズベルト大統領の掲げた「規範」が重要です。「ケインズ主義」の規範です。
 当時、全く新しいマクロ経済学の規範を提案したケインズ(John Meynard Keynes)。このケインズ主義とは、ごく大雑把に言うと、労働者の立場を重視し政治主導で完全雇用を目指す、というものです。これだけだと、なんだかマルクスっぽいですが、民主主義、資本主義社会において、という大前提がありますので、マルクス経済学とは異なります。今回はアメリカ大統領問題についての議論ですので、ケインズ主義の詳細については次回以降にまた取り上げます。

 ニューディール政策は典型的なケインズ理論の政策です。そして戦争による凄まじい官製特需は「軍事ケインズ主義」などと揶揄されました。アメリカは第二次大戦の主役の国であったにもかかわらず、アメリカ大陸本土は全くの無傷。第二次大戦で荒廃しきったヨーロッパに対して圧倒的優位に立ちました。こうしてアメリカは軍事を含めた「ケインズ主義」で大成功を収めました。
 しかし、現代のアメリカでは…… ケインズ主義はもう死に絶えてしまったのです。

ケインズは死んだ

 ケインズ学派の経済学者である菊池英博氏は、1980年代以降のアメリカに見られる傾向として、共和党の大統領(レーガン、ブッシュ)がアメリカ経済をダメにして、民主党の大統領(クリントンオバマ)が立て直している、という指摘をしています。(この見解には三橋貴明氏、柴山桂太氏らも同意していました)共和党は新自由主義的な経済政策を取り、経済活性化と称して大幅な減税を実施、大企業や富裕層を優遇します。結果的には財政赤字を悪化させ、国民を困窮させる。民主党の大統領は逆に増税し、公共政策や福祉を重視し、対外的には強硬な経済政策を取り、アメリカ国内を保護する、という具合。日本からすると確かに、レーガン、ブッシュは優しくて、クリントンオバマは厳しい、ように見えます。まあ、あくまで表面的に、だと思いますけどね(単に中曽根総理、小泉総理が優秀な子分だった、ということかもしれません)。クリントンジャパンバッシング(日本叩き)と、ジャパンパッシング(日本無視)。オバマにしたって、2010年頃でしたか、トヨタ自動車が滅茶苦茶叩かれたのは記憶に新しいでしょう。結局何の不具合もなかったにもかかわらず、1200億円もの和解金を支払う羽目になりました。近年の、オバマ大統領が推進している、個別FTAやTPPも「自由貿易」を騙った近隣窮乏化政策、としか見えず、同盟国イジメの様相を呈しています。

Trust me!

 今更こう言っちゃ何ですが、トヨタ叩きが始まった時、ああ、やっぱり!さすがは民主党!とか思いましたよ私は。鳩山さん暢気すぎ。「同じ民主党同士、仲良くしましょう。トラスト・ミー!」なんてね。オイオイ、相手は民主党だぞ……!

 日本の評論家や政治家には、クリントン大統領のおかげで民主党アレルギー!になった人って結構いるようです。私もそういうところはあります。
 ちなみに、大日本帝国を滅亡へと追いやったのは、先に紹介したルーズベルト大統領。そして世界で唯一の核爆弾攻撃を行った、後継者のトルーマン大統領。このお二人もやっぱり案の定、民主党ですよ!恐るべし民主党民主党はTrust無理!

アメリカ国民の利益とは

 しかしですね、よく考えてみて下さい。ユーラシア大陸など行ったこともないし興味もない、大部分の普通のアメリカ国民にとって、どちらの党の大統領がより望ましいのか。1%の裕福層と99%の負け組。そんな構造を作ってしまったのは誰なのか。いくら貧富格差に寛大なアメリカ人とはいえ、如何なものでしょう。1970年代までのアメリカの繁栄を支えた強力なミドルクラスは、完全に搾取される側となってしまいました。このミドルクラスを弱体化させているのは明らかに共和党系の大統領でしょう。そしてついに民主党オバマ大統領ですら、新自由主義者達を押さえることができなくなりました。
まともな公共政策・福祉政策も取れず、代わりに金融バブルに頼ってばかり。真面目に働くよりも先物やFX投機で一攫千金!なんて空気は日本にも相当に伝染しつつあります。
 ちなみに、現在の日本で、積極的に「ケインズ主義」を唱えているのは、先に挙げた菊池英博氏と三橋貴明氏、くらいのものでしょうか。現在主流の政策担当者や官僚からは、お二人とも時代遅れのトンデモ理論、のような扱いです。ところがアメリカでは……

ケインズの復活

 かつてアメリカの財務長官を務めたローレンス・サマーズ、ノーベル経済学賞を受賞している、ポール・クルーグマン、ジョセフ・スティグリッツといった有力な経済学者が、新自由主義的な構造改革規制緩和に異を唱え、ケインズ主義の復活を声高に主張しています。アメリカの議会も、主流が変わってきているようです。確かに、三十年以上も構造改革を続けてきたアメリカが、そう簡単に変われるとも思えません。カジノ・キャピタリズムに、あまりにも染まりすぎてしまっています。でも学会や論壇は、日本よりも圧倒的にマシなようです。というわけで、十年以上先になるでしょうが、自国の経済に専念、モンロー主義に徹すれば、アメリカ経済の復活というのも、あり得るのかも知れません。でももう、まっとうなアメリカ国民からしたら「世界の警察官」なんて、まっぴら御免、かもしれませんね。

次回予告

 さて、本日が宿題の締め切りなので、中野学校の宿題シリーズは終わり、かと思いきや!早くも追試レポートに取りかかっています。中西氏の、
『日米欧が再び「西側」として責任ある先進国の枠組みを形成し、今後の世界秩序をどう維持していくか』(2ページ目、上の方)
 
 という主張についての検証をしたいと考えています。私は回答編の最初で「現在の状況を、東西冷戦の延長で考えるのは根本的な見誤り」だと指摘しました。次回は、冷戦期とその後の枠組みについて「経済」の視点から検証します。もでまあ、記事三連投になってしまったので、中三日くらい休養の予定です。